ハニー・メモリー
 真帆の日頃の行いがいいので生徒は騒動を受け流してくれている。だが、しかし……。

 有名学習塾の教室長が風俗の副業をしていると思い込んで面白がっている人もいる。

 ジリジリと悪意に燻されて息苦しくなってきた。このままでは、他県の教室に迷惑がかかる。昨日から、悪戯電話や苦情の電話や問い合わせの電話の対応でノイローゼになりそうだ。

「真帆さん……。あの、話があります」

「ごめん。今、忙しいの」

 伯に話しかけられても突き放していた。だって、今は、それどころではない。

 そして、数日後、真帆は本社の上司に呼び出されていた。説明すると、真帆の薄い胸を見て別人と納得したのだが……。それでも、こういう騒ぎになった事に苦言を呈したのだ。

「君のせいで、うちのイメージが悪くなると困るんだよ」

「申し訳ありません」

「君を擁護する生徒からの嘆願書が届いているから、こちらから君を解雇することはないけどね」

 でも、君が辞めるのなら我々は引き止めないという顔をしていたのである。塾はクリーンなイメージが必須なのだ。真帆が誰かに貶められているとしても、そんなふうに怨まれることが悪いと言いたげだ。真帆は仕事を辞めようかとも思っていた。

 いつもの喫茶店でエリカに打ち明けると、エリカはドンッとテーブルを叩いた。

「真帆先生、そんな中傷に屈服しちゃ駄目だよ。エリカ、いい人を見つけたよ。ホワイトハッカーのドMの知り合いがいるの。ゲームのレベルもすげぇ奴なんだ。エリカが何とかしてあげるから、待っててね」

 有限実行とはこのことである。後日、エリカはにんまりと笑って教えてくれた。

 そのハッカーが調べたところ、須藤の他にも何人かが面白がって嘘を書きまわっていたことが発覚したというのである。しかも、そいつは須藤と同じくらい性格の悪さが滲み出ていたのでエリカの怒りを買った。

「ハッキングして、そりうちの一人のこと調べたよ。インスタのDMに向けて、こっちはおまえのことを知ってるぞって書いて脅してやったの。そいつが内定をもらっている会社に、この事をバラしてやるって言ったら、すげぇ、ビビって平謝りしたわ」

 さすが、ドSのエリカ様である。相手を追い詰めるのが上手い。

 このようにして、真帆を貶めるネットの住民のを次々と攻撃していったのである。そうなると、他の日和見的な人達もビビッてしまい、次々と手を引いてしまったのだ。

「ゲーム仲間のみんなで援護射撃をしておいたよ。写真も合成だってのはバレバレだからね。次第に風向きは変わってきてる」
 
「ところで、そのホワイトハッカーって誰なの?」

「エリカもリアルで会ったことないから分からない。本人は、モサドだと言ってる。おじぃちゃんにモサドって何って聞いたら、イスラエルの諜報員だって言ってたよ」

< 104 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop