ハニー・メモリー
8
もう駄目だ。生きた心地がしなかった。須藤の伯への執着心は尋常ではない。
年下のイケメンに告白されて、嬉しくなって浮かれていた自分が情けなくて泣けてる。
(歳の差もあるし、どっちみち、あたし達は無理なんだ……。別れるなら早い方がいい)
色々な疲れが重なり、何とも言えない虚無感に包まれていた。
(けじめつけなくちゃいけないよ。もう、こんなの無理だよ)
そして、伯のアパートで伯に別れを告げる決意をしていた。
須藤が現れてから関係がギクシャクしていて、伯とも、まともに顔を合わせていないこの日の夕刻、彼のアパートへと向かうと静かに出迎えてくれた。
「真帆さん……。どうぞ」
こうやって、二人切りになるのは久しぶりである。伯も責任を感じているのか表情が暗かった。何か思い詰めているようだった。
「僕のせいで迷惑をかけてすみません。須藤に問い詰めても、あいつ、自分は中傷の書き込みなんてやってないってしらばっくれています。でも、犯人は絶対にあいつです」
真帆は伯が淹れてくれたコーヒーを飲む前に、遺影の前で丁寧に手を合わせていく。まだ四十九日は済んでいない。きっと、彼の父親の遺影の前でこんな話をしたくないが、話さない訳にはいかない。
「真帆さん、夕飯、どうですか。炒飯でいいですか」
「あたし、すぐ帰る。御飯なんていらないわ」
素っ気無く答えると伯の顔が悲しげに翳っていった。
「あのね、あたし達、もう無理だよ。別れようよ。あの子は妊娠しているよ」
「仮に、あの子が妊娠していたとしても、僕とは無関係です。僕の友人の子ですよ。真帆さん、僕の事を信じられないんですか?」
「だって、ここで、あの子と一夜を過ごしたのは確かなんだよね」
「やめて下さい。違うって言ってるだろう! 僕は、あんな子に一ミリも興味はありません。酔い潰れていても須藤なんかを抱いたりしませんよ。僕は、あの子を孕ませたりしていません」
言いながら、伯は真帆を押し倒した。性急で乱暴で勢いが強過ぎた。なんで分かってくれないのかという苛立ちがこもっている。
ガシャンッ。物が散らばった。強引なキスに真帆は怯えた。身をよじった。服を脱がされようとしている。真帆の心臓が不快尚な音を立た。伯が本気で怒っている。
伯を疑う気持ちと、信じたい気持ち。どちらも真帆の中にある。
心が引き裂かれていまい半裸のまま途方に暮れたようにポロリと泣いていた。
(須藤さんのことだけじゃない……。自分の年齢と伯の年齢は離れ過ぎている……。最初から、あたし達、付き合うべきじゃなかったのよ)
真帆の絶望的な眼差しに気付いた伯はハッとしたように真帆から身を放したのである。
「すみませんでした。どうか信じて下さい、僕が愛しているのは真帆さんだけです」
年下のイケメンに告白されて、嬉しくなって浮かれていた自分が情けなくて泣けてる。
(歳の差もあるし、どっちみち、あたし達は無理なんだ……。別れるなら早い方がいい)
色々な疲れが重なり、何とも言えない虚無感に包まれていた。
(けじめつけなくちゃいけないよ。もう、こんなの無理だよ)
そして、伯のアパートで伯に別れを告げる決意をしていた。
須藤が現れてから関係がギクシャクしていて、伯とも、まともに顔を合わせていないこの日の夕刻、彼のアパートへと向かうと静かに出迎えてくれた。
「真帆さん……。どうぞ」
こうやって、二人切りになるのは久しぶりである。伯も責任を感じているのか表情が暗かった。何か思い詰めているようだった。
「僕のせいで迷惑をかけてすみません。須藤に問い詰めても、あいつ、自分は中傷の書き込みなんてやってないってしらばっくれています。でも、犯人は絶対にあいつです」
真帆は伯が淹れてくれたコーヒーを飲む前に、遺影の前で丁寧に手を合わせていく。まだ四十九日は済んでいない。きっと、彼の父親の遺影の前でこんな話をしたくないが、話さない訳にはいかない。
「真帆さん、夕飯、どうですか。炒飯でいいですか」
「あたし、すぐ帰る。御飯なんていらないわ」
素っ気無く答えると伯の顔が悲しげに翳っていった。
「あのね、あたし達、もう無理だよ。別れようよ。あの子は妊娠しているよ」
「仮に、あの子が妊娠していたとしても、僕とは無関係です。僕の友人の子ですよ。真帆さん、僕の事を信じられないんですか?」
「だって、ここで、あの子と一夜を過ごしたのは確かなんだよね」
「やめて下さい。違うって言ってるだろう! 僕は、あんな子に一ミリも興味はありません。酔い潰れていても須藤なんかを抱いたりしませんよ。僕は、あの子を孕ませたりしていません」
言いながら、伯は真帆を押し倒した。性急で乱暴で勢いが強過ぎた。なんで分かってくれないのかという苛立ちがこもっている。
ガシャンッ。物が散らばった。強引なキスに真帆は怯えた。身をよじった。服を脱がされようとしている。真帆の心臓が不快尚な音を立た。伯が本気で怒っている。
伯を疑う気持ちと、信じたい気持ち。どちらも真帆の中にある。
心が引き裂かれていまい半裸のまま途方に暮れたようにポロリと泣いていた。
(須藤さんのことだけじゃない……。自分の年齢と伯の年齢は離れ過ぎている……。最初から、あたし達、付き合うべきじゃなかったのよ)
真帆の絶望的な眼差しに気付いた伯はハッとしたように真帆から身を放したのである。
「すみませんでした。どうか信じて下さい、僕が愛しているのは真帆さんだけです」