ハニー・メモリー
「須藤雪姫。あんたについて色々と調べたよ。やっぱり、あんたは妊娠なんてしていなかったわ。あんたの従妹は須藤優樹。ゆきとゆうき。似たような顔で似たような背格好をしやがって。従妹同士でややこしい名前を付けやがって。やっと、妊娠のからくりが分かったんだからね!」

 顔を突き出すようにして踏み込むと真正面から須藤を恫喝している。

「てめぇ、こんなセコイ嘘ついて恥しくないのかよ。その場しのぎの嘘で乗り切れると思ったのかよ?」

 同い年の従妹の母子手帳を拝借して真帆に見せたというのが真相なのだ。

 エリカが須藤の襟首を掴んだのだが、まったく動じることなく鼻先笑っている。

「何だよ。あんた、おばさんの仲間なの? なんで、おばさんの味方をするの。おばさんなんかより、あたしの方がうんと可愛いじゃん。それに、おばさん、胸がペッタンコだよ。伯君の彼女に相応しいのはあたしだと思うけど」

 まあ、確かに年齢的にはピッタリと言えよう。

「なんで、あたしを選んでくれないのよ。こんなのおかしいよ」

 ある意味、その通りである。真帆が男ならば若い須藤を選ぶだろう。中味はともかく、その見た目は抜群に可愛い。

 しかし、エリカは口角をニヤリと歪めて笑い飛ばしている。

「バーカ。デブ専って言葉を知らないのかよ? デブ専にとってはデブこそが女神なの。スーパーモデルなんか糞くらえなの。貧乳が好きな奴にとっては巨乳なんか脂肪の生ゴミ以下なんだよ。人は、それぞれ求めるものが違うんだよ」

「えっ?」

 エリカの勢いに須藤はたじろいだように顔を引き攣らせている。さすが、エリカ様。女王様としての奥義を究めているだけの事はある。

「真帆先生は王子先生にとってかけがのない貴重な一点ものなんだよ。真帆先生でなきゃ、チンコが勃たないんだよ」

 聞いていて恥しくなる。お願い、やめて。しかし、須藤も負けていない。

「それなら、あたしは伯君じゃなきゃ駄目な体質なの。あたしは伯君としかエッチしたくない。それなのに、あたしの事なんか見向きもしないんだよ。一度でいいから抱いてくれたらいいのに。そしたら、片思いから卒業できるのに」

「バーカ。おまえみたいに相手の幸せを考えない奴に未来なんてないんだよ! そんなに好かれたいなら、そのデカイ胸を削ればいいんだよ。王子先生の好みのタイプになる勇気はあるのかよ。エリカだって、カラコンと茶髪と睫毛を諦めたんだからね。その胸、ほんと、うざいわ」

 真帆としては何とも複雑だった。いつのまにか伯は貧乳好きという事になっている。

 エリカの罵倒は止まらない。

「そんなに王子先生に愛されたいのなら、目障りなブヨブヨした乳牛みたいな胸を平たく削れよ!」

「何よ。おばさんは何も努力してないじゃん。そんなの不公平だよ」

 それを聞いたエリカの怒りが炸裂している。

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