ハニー・メモリー
9
あれを最後にプツッと須藤は姿を現さなくなった。しかし、相変わらず、伯の行方は分からないままである。どうすればいいのか分からない。ただ、時間だけが過ぎていく。
エリカも心配していた。
「携帯、繋がらないらしいね。あたし、調べたよ。王子先生、携帯も解約したみたいだよ」
エリカの知り合いのホワイトハッカーが調べた結果、伯には親戚が誰いない事が分かったのである。
伯の父方の祖父母は伯が生まれる前に亡くなっており、母方の祖母は伯の母が幼い頃に亡くなっている。
「王子先生のママって母子家庭で育っているんだけど、幼い頃、実の母親から虐待されてたみたいだよ。王子先生の母方のおじぃちゃんは誰なのか、誰にも分からないみたいなんだ」
やがて、伯の母は孤児になってしまい、その後は施設に入ったようである。
「こうして調べてみると、王子先生ってさ、案外、孤独な身の上なんだね。王子先生の友達も、行き先を知らないみたいだよ。だけど、夏休みだから、どこかに旅行に行ってると思ってるみたいだわ」
「だけど、旅行するお金なんてあるのかな」
真帆は、溜め息を漏らさすにはいられない。
(伯の父親がホームレスになった時、なんで、息子だけでも親戚に預けないのか不思議に思ったけど、頼る親戚がいなかったんだね……)
子供の頃の伯の寂しさを凝縮したような瞳を思い出して切なくなってきた。早く、見つけ出したい。会って、謝りたい。
すると、八月に入ると、エリカがこんな情報をもたらしたのである。
「高校生の頃から、週に一度、必ず、目の不自由な老人の為に本の朗読をしているみたいだね。孫みたいに可愛がられているそうなの。もしかしたら、この人なら、王子先生の行く先を知ってるかもしれないよ」
伯は、突然、姿を消している。しかし、老婦人には何か伝言を残しているかもしれない。一縷の望みに賭けてみよう。
その老婦人は、海の見える老人ホームに暮らしている。三島幸子。七十二歳。若い頃は、エステサロンを経営していたが五年前から隠居している。
突然、現れた真帆に対して、老婦人はこう言った。
「あら、遅かったわね」
どうやら、老婦人は真帆が訪れる事を予期していたらしい。
「いらっしゃい。王子君のことで来たのね。あの子からの伝言を預かっていますよ。あの子、遠くに行くって言ってたの」
「どこに行くと言ってましたか?」
「四国よ。父親の生家に行くみたいなの。ほら、四十九日が終わるとお骨をお墓に入れるじゃない?」
「という事は、それが終われば帰ってくるんですね?」
「さぁ、どうなのかしら。そこまでは、あたしも知らないわ。ただ、あの子は、あなたに迷惑をかけた事を悔やんでいましたよ」
老婦人は見るからに上品だった。全盲という訳ではなくて弱視だという。
エリカも心配していた。
「携帯、繋がらないらしいね。あたし、調べたよ。王子先生、携帯も解約したみたいだよ」
エリカの知り合いのホワイトハッカーが調べた結果、伯には親戚が誰いない事が分かったのである。
伯の父方の祖父母は伯が生まれる前に亡くなっており、母方の祖母は伯の母が幼い頃に亡くなっている。
「王子先生のママって母子家庭で育っているんだけど、幼い頃、実の母親から虐待されてたみたいだよ。王子先生の母方のおじぃちゃんは誰なのか、誰にも分からないみたいなんだ」
やがて、伯の母は孤児になってしまい、その後は施設に入ったようである。
「こうして調べてみると、王子先生ってさ、案外、孤独な身の上なんだね。王子先生の友達も、行き先を知らないみたいだよ。だけど、夏休みだから、どこかに旅行に行ってると思ってるみたいだわ」
「だけど、旅行するお金なんてあるのかな」
真帆は、溜め息を漏らさすにはいられない。
(伯の父親がホームレスになった時、なんで、息子だけでも親戚に預けないのか不思議に思ったけど、頼る親戚がいなかったんだね……)
子供の頃の伯の寂しさを凝縮したような瞳を思い出して切なくなってきた。早く、見つけ出したい。会って、謝りたい。
すると、八月に入ると、エリカがこんな情報をもたらしたのである。
「高校生の頃から、週に一度、必ず、目の不自由な老人の為に本の朗読をしているみたいだね。孫みたいに可愛がられているそうなの。もしかしたら、この人なら、王子先生の行く先を知ってるかもしれないよ」
伯は、突然、姿を消している。しかし、老婦人には何か伝言を残しているかもしれない。一縷の望みに賭けてみよう。
その老婦人は、海の見える老人ホームに暮らしている。三島幸子。七十二歳。若い頃は、エステサロンを経営していたが五年前から隠居している。
突然、現れた真帆に対して、老婦人はこう言った。
「あら、遅かったわね」
どうやら、老婦人は真帆が訪れる事を予期していたらしい。
「いらっしゃい。王子君のことで来たのね。あの子からの伝言を預かっていますよ。あの子、遠くに行くって言ってたの」
「どこに行くと言ってましたか?」
「四国よ。父親の生家に行くみたいなの。ほら、四十九日が終わるとお骨をお墓に入れるじゃない?」
「という事は、それが終われば帰ってくるんですね?」
「さぁ、どうなのかしら。そこまでは、あたしも知らないわ。ただ、あの子は、あなたに迷惑をかけた事を悔やんでいましたよ」
老婦人は見るからに上品だった。全盲という訳ではなくて弱視だという。