ハニー・メモリー
 いざとなったら、須藤は毒薬を入れるかもしれない。それぐらいヤバイ女だから刺激しないようにした方がいいと言う意味で、苛める側の女子に忠告していたのである。

 しかし、その様子を見ていた須藤は、伯が自分を守ってくれていると勘違いした。それで、好きだという気持ちが加速していったのだ。

 以後、須藤の片思いは続く事になるのだが……。伯は、適当に須藤と距離を置いてやり過ごす事にしていた。

 自分のことなど早く忘れてくれと伯は願っていた。粘着質な恋心は醜悪だ。報われない恋は呪いに似ている。

 伯の父親がホームレス生活から脱却して、警備会社の社員になると生活は安定した。しかし、前のように、四六時中、一緒にはいられなくなった。

 当時、小学生だった伯は、時々、父に内緒で遠出をしていた。前に暮らしていた街へバスで向かって図書館で勉強をしていたのである。

 憧れのお姉さんである真帆が図書館に来るのを待ちわびていた。

 何しろ、伯と真帆は何度も顔を合わせている。
 
 真帆の自宅で一泊したことだってあるきっと、真帆は自分のことも覚えているだろうと思って期待していた。顔を見かけたら、無邪気に話しかけるつもりだった。しかし、その時、真帆は、異次元のイケメンと共に図書館に入ってきたものだから、伯の身体から血の気が消えてしまった。

 彼等は図書館の中にある個別の会議室のような部屋に入っていった。

 そこは、市民が自由に使える自習室というところだった。

 超絶イケメンは真帆に数学を教えているようだった。午後の五時から七時まで二人は一緒にいた。その間、真帆は、何度もうっとりしたようにイケメンを見つめていた。

 ああ、真帆はこの人の事が好きなのだとすぐに分かった。

「先輩、今日はありがとうございます」

「うん、試験、頑張ってね」

 イケメンは余裕に満ちた笑みを浮かべてから先に帰ろうとした。イケメンは自分が飲んでいたペツトボトルを持ち去ろうとしたのだが、真帆が慌てたように引きとめた。

「あの、あたしが捨てておきますから」

「ああ、それじゃ、頼むね……」

 イケメンが消えた後、真帆は、コカコーラーのペットボトルを両手で握り締めてコーラーを嬉しそうに飲み干していった。その時の、真帆の顔は恍惚としたものになっていたのてある。

 恋する乙女の蛮行を見てしまい、伯は打ちのめされた。

 高校生の真帆を一方的に想う伯は自分の幼さと無力さを痛感していた。そして、あのイケメンが誰なのか気になって仕方がなかった。だから、伯は、真帆の高校の文化祭や体育祭の時、学校に乗り込み調べたのである。

 東堂秀吉。名前はすぐに分かった。彼は、進学校の生徒会長で真帆は書記をしていた。

『東堂様、カッコいいーーー』

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