ハニー・メモリー
 はく? 変な名前だが、前に聞いたような気がする。むずい。もしかしたら、ジブリのアニメかもしれない……。ハク。そういうキャラクターがいたような……。

 午後二時。王子伯という東大生を面接をしようと迎え入れることにしたのだが。

「失礼します。王子伯です」

 背の高い大学生が入ってきた直後、真帆は、うっかり、A4サイズの茶封筒を膝の上にバサッと落としてしまう。そんな、まさかという思いと共に全身が粟立った。

 拾太郎が、なぜ、ここに! 履歴書の地味でダサイ写真のせいで気付けなかった。

 痛恨の極み。本名は、王子伯だったようだ。あの夜の彼が、ここに来るなんて。オーマイガッ。

(やたー、もう二度と会わないと思ってたのにーーーー)

 いやいや、動揺してはいけない。ひとまず落ち着くのだ。

 背中にジンワリと嫌感じの汗が滲み出てきたが、それでも、平静を装うしかない。

(ここでは、あの夜の事は話せないわ。というか、この人、もう忘れてる?)

 真帆は、とりあえず、面接を済ませて終わらせてしまおうと思ったのだ。

「こんにちは。面接を開始します。ど、どうして、ここに応募したのですか?」

 ヒヤヒヤしていたのだが、相手は淡々としている。

「スケジュールが立て易いと思ったからです。それに、ヘルパーの仕事だと、お客さんに性的なサービスを泊められたり、異性として好かれて困ることもありますからね。ところで、失恋の傷は癒えましたか?」

 うっ。痛いところを突かれて脈が乱れる。

 やはり、覚えていたのね。

 真帆を見据えたまま淡々と告げている。

「あの夜の事は、お互い、なかったことにしましょう。期待に沿えるように頑張ります。採用していただけると嬉しいです」

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