ハニー・メモリー
「エリカ、歌舞伎町の女王様クラスの才能があるみたいなの。あいつらが言うには、ただ悪口を言うだけじゃ駄目なんだって」

 エリカに強く興味を示した東堂はボイスチャットで夜な夜な話すようになる。そんなことをしていると、ママに現場を押さえらて叱られた。

「ママったら、パソコンを没収して、ネットの回線も使えなくしたの。携帯も、動画をあんまり見れないように3GBのやつを契約したの。そんなの酷いよね」

 だから、ママには内緒で東堂名義のスマホをゲットしたというのだ……。

「最近は、ドMの人達とだけ繋がってるの。エリカ、子供の頃からおじぃちゃんの書斎にあるエロい小説を愛読しているから、罵倒の語彙は豊富なの」

 確かに、国語だけは、京大や東大合格の文学部であろとも合格間違いなしの偏差値である。まさか、昭和の文豪の官能小説のおかげだったとは……。

 やっぱり読書って大事だわと呑気に感心する真帆に対して、エリカはニコニコしている。

「エリカ、乗馬が趣味でさぁ、本物の乗馬の鞭を持ってるって言うと、東堂のおじさんが興味を持っちゃってさ、それで定期的に会うようになったの。超、イケメンだし、お金持ちだし、色々と都合が良かったの」

 そうやって、この八ヶ月間、ホテルで会っていたという。つまり、真帆とお見合いしていた頃も東堂はエリカとの逢瀬を重ねていた事になる。何のよ。色んな意味でショックが大きくて頭がズキズキしてきた。

「でも、セックスはしてないよ。おじさんのお尻を叩いて罵ってあげると悦ぶの。あたしは女王様として首に鎖をつけて散歩させてあげるの。爽やかな関係だわ」

 おいおい、どこが爽やかなんだよと、げんなりしてきた。しかし、エリカは人目も憚ることなく、あっけらかーんと語っている。

「おじさんは脱ぐとエロイの。いい身体してるんだよ。ほんと、目に保養になるわ」

「そ、そうね」

 そんなことは言われなくても知っている。剣道の練習後、汗ばんだ身体をタオルで拭いていたもの。引き締まった背中の筋肉をスマホで激写したことは誰にも内緒にしている。

「おじさんの好きな女優は、チャーリーズ・エンジェルのS系のキャラなんだ」

 アジア系の一重瞼で吊り目のソバカスだらけのエキセントリックな女性が理想のようである。

 そういえば、真帆が高校時代、東堂先輩の兄である歯科医師り利休にクラスの女子が尋ねたことがある。

『秀吉さんって、どういう女性が好きなんですか?』

『ああ、チャーリーズエンジェルみたいな人だよ。あいつ、あの映画、よく観てるからね』

 その時、みんな、キャメロン・デイアスのファンだと想っていたのに。

(まさか、吊り目のアジア人の方だったとは……。どうして、あたしはキャメロンに似てないんだろうって悩んだ日々は何だったのかしら)
 
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