ハニー・メモリー
残念ながら学食などで会えるチャンスも少なかった。
しかし、キャンパスで東堂の姿が見えただけで今日はいい日だったと満足していた。そんな日々を振り返りながら言う。
「友達はね、あたしの東堂さんへの想いは推し活みたいなもんだって言うのよね……。あたしも、そうなのかもしれないと想ったわ」
東堂への想いを引きずりながらも、真帆は大学を卒業する。やがて、そこから七年の歳月が流れていった。
「初恋の相手と結ばれるなんて御伽噺の世界のことだし、まぁ、仕方ないなぁと思っていたの。先輩のことは、いい思い出って感じだったのよ。就職してからは仕事に力を入れたわ」
真帆は彼氏を一度も作る事もなく過ごしてきた。ある時、自宅の居間のテーブルの上に風呂敷に包まれたお写真が置かれていた。
いい歳なんだから、いい相手を見つけて欲しいと母にせがまれて、三ヶ月前に見合いをした。外資系の豪華なホテルのカフェで対面した直後、セリーヌのクラッチバックを落としそうになった。
なんと、目の前に、憧れの先輩の東堂が佇んでいたからだ。
『せ、先輩……』
『真帆。久しぶりだね、元気そうだね。君は少しも変わらないね』
これはすごい。
パンパカパーン。脳内で薔薇の花びらが舞った。歓喜の瞬間だった。お見合い相手が東堂だなんて知らなかった。写真も見ていなかったからだ。
奇跡の再会に心臓が暴れ出す。いやーーん。どうしましょう!
規格外の美形である。イタリア製のグレーの高価なスーツが似合っていた。以前にも増して大人びていて凛々しくて、胸がトクトクと弾む。やはり、あなたはあたしの王子様……。
『あら、あなた達、知り合いなの?』
仲人さんは驚きながらもニコニコしていた。何しろ、二人は高校時代の後輩と先輩という間柄なので、会話が途切れることなどなかった。
彼は、懐かしいねと言いながら頷いていた。
お見合いの翌週、彼は立派な日本家屋に招待してくれた。生憎、御両親は留守にしていたけれど、そこには和服姿の祖母の梅がいた。
『真帆さん、あなたのようにちゃんとした人が孫の奥さんになってくれたら、あたしも安心だわ』
どうやら、この家の実権は梅が握っているらしい。お見合い相手は、毎回、梅が見定めていたという。その時、梅は心の底から満足していたのである。もちろん、真帆の両親も応援していた。母は、デートの度に真帆に告げた。
『真帆ったら、とっても幸せそうね』
結婚を前提とした交際が続いた。けれとも、手を握られたこもない。おかしい。さすがに、この関係に焦れた真帆が思い切って東堂にお願いしをしたのだった。
『先輩、あたしの誕生日はホテルで一緒に過ごしてくれませんか。あたし、先輩と人生を共にしたいと本気で思っています』