ハニー・メモリー
『エリカのことでお世話になっているんですもの。これぐらい、当然ですわ。ちなみに、その二人は、うちの子と違って塾に行かなくても優秀なタイプですのよ』

 優秀な生徒は大歓迎だ。夏期講習の人数も揃った。そして、幸いにも、新入りの伯は講師としての適正があったのか、それとも、真帆に東堂とのことを知られているので改心したのか分からないが、エリカは真面目に取り組んでいる。

 早いもので伯が来てから十日が経過している。伯は、見た目が清潔感もあり、教え方も適切なので生徒からの評判もいいようである。ややこしいエリカのことも手なずけているのだからたいしたものだ。 

 チーン。エレベーターが開くと伯が出てきた。

「真帆先生。こんにちは」

 今日は祭日で、伯は夕方からシフトが入っている。

 真帆は、出勤してきた伯を見た途端に大きく目を見開いた。いつもと髪型と服装が違っている。

「どうしたの? やけにお洒落だね」

「今日は、高校時代の友達の結婚式の披露宴に行ってきました。その帰りです。二次会には行かずに、そのままここに来ました」

 なるほど。だから、いつもより華美な服装をしているのか……。眼鏡を外すとかなりのイケメンになるというのに、ここに来る時は野暮ったい眼鏡を装着している。生徒に、実はイケメンだということを悟られないように変装しているのかもしれない。

 伯は、自分の机に座ると眼鏡を外して目薬を点したのだ。

 真帆は伯の横顔に吸い込まれるようにして見入っていた。金木犀の甘い香りに浸されるような不思議な感覚になってしまう。

 藤堂とは趣が違うが、かなりの美形だ。

(伯の素顔を見るとドキッとなるわ……。ほんと、ギャップが凄いのよ)

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