ハニー・メモリー
泣きそうになっている真帆は、どうすればいいのか分からない。
その背後から伯が言った。
「何かの発作を起こしたのかもしれない。老人が舌を噛まないように注意して見守って下さい。僕は救急車を呼びますから」
周辺には人だかりが出来ている。老人は胸を押さえたまま動かなくなっていた。意識を消失しているように見える。その時、東堂がスッと割り込んできたのである。
「真帆、ここは僕に任せてくれないか?」
キリッとした眼差しを向けられると真帆はドキッとなる。東堂はドMの変態かもしれないが、現役の完全無欠のエリート医師なのだ。
老人に寄り添い冷静に対処しようとしている。
緊迫した状況で冷静に対処する横顔は、いつにも増して精悍だ。後光が射している。
傍で静かに見守りながら、泣きそうな声で告げた。
「あたしのせいで、おじぃさん、タピオカを喉に詰めたみたいなんです」
東堂は老人の脈を計り終えると顔を上げると静かに告げた。
「いや、違うよ。この人はタピオカを飲んでいないよ。これは、ギャルの間で流行っているバナナジュースだよ。どうやら、彼は、心臓が悪いらしい。早く心肺蘇生しないとまずいことになる」
東堂は、もう既に老人の胸に両手を添えて心臓マッサージを始めている。テレビドラマなどでよく見かけるシーンだ。
(あたしのせいで、ビックリして心臓が止まったってこと……?)
塾には、こういう時に心臓に当てる医療器具がある。あの名前は何だっけ。動揺しているせいなのか正式名称がなかなか出てこない。
東堂は老人の顎を上げて気道を確保してから、適切な方法で人工呼吸を繰り返しいったのだ。周囲の人も異変に気付いて見守っている。しばらくは張り詰めた空気が続いたのだが……。
「ぐふっ……」
老人の喉が微かに動いている事に真帆も気付いた。老人は息を吹き返したのだ。周囲からは温かい拍手が沸きあがっている。
ずっと真帆は息をこらしていたか、ようやくも緊張の糸が解けて弛緩したようにガートレールにもたれた。
やがて、救急車が到着した。意識はとり戻したようだが、まだ苦しそうにしている老人が担架に乗せられようとしている。
ちょうど、その時、老人が倒れていた舗道の向かい側のコンビニのエントラスからエリカが飛び出して出てきた。ソワソワしたように横断歩道を渡ると、人だかりの中心部に飛び込んで叫んでいる。
「おじぃちゃん。やだーー、死なないでーーー」
なんという偶然なのだ。その老人は、エリカの祖父だったらしい。担架にすがりつくエリカは悲痛な顔をしている。その肩に優しく触れながら東堂が話しかけている。
「もう心配ないよ。僕が勤務している病院に運ぶよ」
「あたしも、一緒に行く」
「そうだね。その方がいいね」
その背後から伯が言った。
「何かの発作を起こしたのかもしれない。老人が舌を噛まないように注意して見守って下さい。僕は救急車を呼びますから」
周辺には人だかりが出来ている。老人は胸を押さえたまま動かなくなっていた。意識を消失しているように見える。その時、東堂がスッと割り込んできたのである。
「真帆、ここは僕に任せてくれないか?」
キリッとした眼差しを向けられると真帆はドキッとなる。東堂はドMの変態かもしれないが、現役の完全無欠のエリート医師なのだ。
老人に寄り添い冷静に対処しようとしている。
緊迫した状況で冷静に対処する横顔は、いつにも増して精悍だ。後光が射している。
傍で静かに見守りながら、泣きそうな声で告げた。
「あたしのせいで、おじぃさん、タピオカを喉に詰めたみたいなんです」
東堂は老人の脈を計り終えると顔を上げると静かに告げた。
「いや、違うよ。この人はタピオカを飲んでいないよ。これは、ギャルの間で流行っているバナナジュースだよ。どうやら、彼は、心臓が悪いらしい。早く心肺蘇生しないとまずいことになる」
東堂は、もう既に老人の胸に両手を添えて心臓マッサージを始めている。テレビドラマなどでよく見かけるシーンだ。
(あたしのせいで、ビックリして心臓が止まったってこと……?)
塾には、こういう時に心臓に当てる医療器具がある。あの名前は何だっけ。動揺しているせいなのか正式名称がなかなか出てこない。
東堂は老人の顎を上げて気道を確保してから、適切な方法で人工呼吸を繰り返しいったのだ。周囲の人も異変に気付いて見守っている。しばらくは張り詰めた空気が続いたのだが……。
「ぐふっ……」
老人の喉が微かに動いている事に真帆も気付いた。老人は息を吹き返したのだ。周囲からは温かい拍手が沸きあがっている。
ずっと真帆は息をこらしていたか、ようやくも緊張の糸が解けて弛緩したようにガートレールにもたれた。
やがて、救急車が到着した。意識はとり戻したようだが、まだ苦しそうにしている老人が担架に乗せられようとしている。
ちょうど、その時、老人が倒れていた舗道の向かい側のコンビニのエントラスからエリカが飛び出して出てきた。ソワソワしたように横断歩道を渡ると、人だかりの中心部に飛び込んで叫んでいる。
「おじぃちゃん。やだーー、死なないでーーー」
なんという偶然なのだ。その老人は、エリカの祖父だったらしい。担架にすがりつくエリカは悲痛な顔をしている。その肩に優しく触れながら東堂が話しかけている。
「もう心配ないよ。僕が勤務している病院に運ぶよ」
「あたしも、一緒に行く」
「そうだね。その方がいいね」