ハニー・メモリー
3
(もう、やだな。ああーー、ムシャクシャしてきた。ううっ、悔しいな!)

 あれから、ずーーっと真帆は苛々している。喪女という言葉をネツトで調べた結果、ズコーンと落ち込んでしまっだ。

「何さ。哀れな喪女で悪かったわね」

 朝になっても起きる気にはなれなかった。

 伯は真帆よりも十歳も年下なのに容赦ないところがある。軽蔑の滲んだ冷ややかな目で射抜かれてしまった。あの時、グサッと心を抉られた。でも、闇の中で艶めくような伯の視線は壮絶なほどに色っぽかった。惨酷であるが故にゾクッとさせられた。

 ひょっとしたら、あの子はドSなのかもしれない。あの夜、見捨てられたような気持ちになり傷ついたのだ。裳女だなんて酷い。

 自分が生きた屍になったみたいで哀しくなる。男は童貞のまま死ぬと妖精になるらしいが、女の場合はどうなるのだろう。裳女のまま、人生を終えるなんて嫌だ。

 真帆の拙い知識によると、処女喪失をする際には身体が壊れるくらいに痛いらしいが、先輩になら壊されてもいい。ああ、むしろ、ズタズタに壊して苛め抜いて欲しい。

(きゃーーーっ。恥しい。でも、そういう瞬間を夢見ていたんだよね……)

 でも、先輩は高飛車な女王様を欲している。駄目だ。需要と供給がズレている。お互いに合致していない。

 自分が東堂を満たすとびつきりの女王様になるしかないが、その為には、いろいろと研究する必要がありそうだ。

(お料理が苦手な女性が料理学校に通うっていうのはよくあることだけど、女王様を育成する学校なんて、この世にはないわよね……。あったとしても、そこに通う勇気はないけどね)

 今朝、真帆に追い討ちをかけるように結婚式の招待状が届いた。また一人、同級生が結婚していくのだと思うと気持ちが沈む。

 彼女は、東大時代の女友達で、こけしのような顔立ちの素朴な女の子だったのだが、大手の商社に入り、そこで知り合った同期の男性と結婚するというのだ。

 少し前に、彼氏さんの写真を見せてもらった。アンパンマンのジャムおじさんのような顔をしていた。つまり、優しさに満ち溢れている。

『あたしの彼、ずっと男子校で女子が苦手だったらしいの、だけど、あたしといるとリラックスできるって言ってくれるの』

 そんなふうに話していたっけ。何とも羨ましい。

(あたし、結婚式には出られないけど、お祝いは渡しておかないとね……。ああー、せめて、二次会だけでも行きたかったなぁ)

 今日が結婚式なら行けたのに! 

 今日は真帆にとって貴重な休日。しかし、休みをエンジョイできるような心理状態ではない、私生活は完全に行き詰っている。苛々を募らせたまま不貞寝するよりは外に出る方が精神衛生的にはいい。

 やっと布団から抜け出して台所に向かうと、真帆の母は炊き立てのお赤飯をお重に詰めているところだった。

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