ハニー・メモリー
「何、それ」

「ルナちゃんの為に作ってるの。下の子が一歳になったお祝いよ」

「お母さん、それ、あたしがルナに届けるよ」

「助かるわぁ。それじゃ、よろしくね」

 ひとつ年下の阿原ルナは二人目の子供を出産してから一年になる。結婚してからは、ずっと専業主婦なので、いつも家にいる。

(ルナに相談してみようかな)

 そんな事を思いながら駅前のマンションに辿り着いた。

「久しぶりだね。真帆ちゃん」

 ルナはピンク色のモコモコっとした部屋着姿だった。仲のいい従妹である。童顔なので、今でも高校生に間違われることもあるけれどに二児の母。上の子は四歳、保育園にいる。

 そして、赤ちゃんはベビーベッドで眠っている。

 いつ見ても朗らかな笑顔が可愛いらしい。クラスの人気者のまま大人になりましたという感じ。真帆は、風呂敷に包まれたお重を差し出していく。

「あのね、うちの母がお赤飯を炊いたの。たくさん作ったからルナちゃんも食べてね」

 母の郷里の村では、赤ちゃんが一歳になると赤飯を炊いて母親を労っていたらしい。

「わー、嬉しい。いつもありがとう」

「こないだ、ルナの旦那さんに雨樋を直してもらった御礼だよ」

「そんなのいいのにーーー。直したって言うか、詰まってたから単に掃除しただけだよ。うちの旦那って外仕事は得意なの。パソコンの設定は駄目だけどね」

 ちなみに、真帆の父は腰痛が酷いので大工仕事のようなことが無理なのだ。

「うちの旦那、真帆ちゃんに男を紹介するって言ってるよ。ガタイのいい元ヤンでいいなら、いくらでもいるけど、真帆ちゃんの好みじゃないよね~ 真帆ちゃん、東大エリートの先輩一筋だもんね」

 快活に微笑みながら、ルナは真帆の為に紅茶を淹れてくれた。

 エクボが可愛いルナは昔から男の子に人気があった。明るくて気さくで誰とでも仲良くなれる。コンパや飲み会やカラオケには積極的に参加して人脈を広げていた。当然のことながらママ友も多い。

 一方、真帆は東大に入る為に勉学に励んできた。就職してからは、生徒を合格させる事に全集中でコンパに出る暇もなかった。自分だけ彼氏がいないという状況が長く続いていても、若い頃は、特に寂しいとは思っていなかった。心の中で東堂のことを想っているだけでフアフアと浮遊することが出来たからだ。しかし、夢破れた今は、ルナの幸せオーラが何やら眩しい。

(子供の頃から勉強に打ち込んできたの。先輩と同じ世界にいたかった。いつも先輩を追い求めてきたのに……。何やってんだか。情けない……)

 自分と違って、ルナは愛に溢れた暮らしをしている。どう見てもリア充だが、それでも悩みはあるらしい。リビングで寛いでいると、元ヤンの旦那について愚痴り始めた。

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