ハニー・メモリー
 走って帰ってきた伯がペットボトルの紅茶を差し出してきた。クリームソーダーの気分だが仕方ない。すると、彼は言った。

「生憎、クリームソーダーは売り切れていました。だけど、午後の紅茶も好きですよね?」

 すごいぞ。真帆の飲みたい物を把握している。前から思っていたのだがエスパーみたいだ。ちなみに、伯は、コカコーラーを手にしている。

 コカ・コーラは藤堂もよく飲んでいたっけ。

「真帆さん、何か気になる事があるんですか?」

 複雑な想いで何でもないと答えていると、彼は、なぜか、おどけたように軽妙な顔つきでこう言った。

「もしかして、生理ですか?」

「違うわよ」

「知ってます。あなたの生理は三日前に終わりましたよね」

「なんで、そんなこと知ってるのよーーー」

「ふふ、なんとなーく分かるんです」

 生理の時、真帆はトイレに行く前にスヌーピーのポーチを抱えている。それを見て判断しているのだ。伯は唇の端っこを吊り上げるようにして悪戯めいた表情を浮かべている。

「真帆さん、生理の時は雰囲気が違いますから」

「やめてよ。そういうのセクハラだよ!」

「すみません。僕、あなたに興味があるんです。あっ、真帆さん、衿に米粒がついてますよ」

 そう言うと、米粒を指先で摘んでペロッと食べてしまった。

「えっ、そんなの不衛生だよ」

「元ホームレスだから耐性がありますよ」

 ああいえばこう言う。すっかり伯のペースにはまっている。

 仕事の合間。こうやって誰かと雑談するとリラックス出来る。いつのまにか、真帆の口元には笑みがこほれていた。

 どうやら、彼なりに真帆のことを慕っているらしい。真帆が重い荷物を持っていたりすると、すぐに駆けつけてくれる。けれど、油断しているとすぐにからかってくるので気が抜けない。実は、昨日も、真帆の顔を観るなり彼が指摘したのである。

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