ハニー・メモリー
 ルナは、学生の頃から東堂に憧れていることを知っている。さすがに、ドMだということは、東堂のプライバシーに関わるので言えないので伏せておこう。

「いいじゃんーー。おばさん、真帆ちゃんがイケメン医師と結婚するものだと思って浮かれてたんだよ。もう一度、やり直して結婚まで持ち込みなよ」
 
 ルナは前々からこう言っていた。

『真帆ちゃんって、ちょっと男の人に対して幻想を抱き過ぎてるような気がするんだよなぁ。人って、思いがけない秘密とか欠点とか抱えてるもんだよ』

 真帆のように勉強は出来ないけれど、ルナの方が人としては賢い。結局、ルナが言うとおりだった。真帆は、幻想世界から落下して途方に暮れている。

「あたしも、洸ちゃんと何回か別れてるよ。それで、やっぱり、この人がいいって考え直してエッチしたら燃え上がって妊娠したの。それにしても、先輩、なんで、真帆ちゃんのことフッたのかな~ 何か、真帆ちゃん、心当たりある?」

「ああ、なんていうか、性の不一致みたいな感じかなぁ」

 詳しくは言えない。

「いや、またエッチはしてないんだけどね……。向こうが手を出そうとしなかったの」

 ルナは、うんうんと頷きながら言った。

「あたし、分かる気がするわ。真帆ちゃん処女だもん。相手の人も、ちょっと重たくなったのかもね。男の人の中には、処女でなきゃ駄目って人と処女は勘弁して欲しい人がいるからね~」

 えっ。そうなのか。真帆は胸を押さえる。ドMの人にとって、前者と後者、どちらが好ましいのだろう。まったくもって謎である。
 
「人の心ってさ、日々、アッフデートしていくからね。その人も、離れてみて真帆ちゃんの魅力が分かったってことだよね。良かったじゃん。なんてったって真帆ちゃんは、先輩のことがまだ好きなんだよね。そうでなかったら、こんなふうに、あたしなんかに相談してこないもん。ぜーったい、真帆ちゃん、先輩に未練があるんだよ」

「あっ、うん」

「とりあえず、身体の相性は事前に確認するべきだと思うんだ。結婚してから、この人の口が臭いとか、この人の触り方が嫌だとは気付いても遅いしね……。実はゲイだとか、ロリコンとか後で分かると困るよね。真帆ちゃんの好きな人には、とんでもない裏の顔とか無さそうだけどね」

「そ、そうだね」

 というか、彼はドMなのだ。でも、それはルナには言えやしない……。

「イケメンで地主の息子で医者。そんな人と付き合えるなんて少女漫画だよ。とりあえず、仲直りのキスから始めてみたらどうよ。真帆ちゃん達、まだキスしていないんだよね。別に、女の方からしてもいいんだよ」

 ファーストキス。それは、夢見る真帆にとってはキラキラと眩い行為になっている。

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