ハニー・メモリー
 ちなみに、『レンタル彼氏』という存在を真帆に教えてくれたのはルナで、寂しい時、たまにレンタルするらしい。手を繋ぐ程度のことしかしないので、旦那に後ろめたい気持ちを抱くこともないという。

『ママ友や親友に言えない事も、お金で雇ったクリーンな彼氏には言える。男性の目線でアドバイスをしてくれるから助かるの』

 みんな、色々と大変なのだ。二児の母として、どーんと構えているように見えるルナにも悩みはあるのか、急に顔を曇らせた。

「あのさ、真帆ちゃん、聞いてよ。洸ちゃん、実家で同居して欲しいって言うんだよ。マンションの家賃も払わなくて済むし、孫の面倒も見てもらえるから、おまえもラクだろうって言うの」

「ルナは気が乗らないの?」

「うーん、洸ちゃんのお義母さんと同居したら、一日中、気が抜けないじゃん。パジャマ姿でウーバーでお昼御飯なんてのも許されなくなっちゃうしさぁ……」

「同居なんて嫌だって言えなくて悩んでるの?」

「いや、別にね、義母さんのこと嫌いって訳でもないんだよね。そこってさぁ、都心から離れてるし、なんつーか、嫌というより気が乗らないだけなんだけどね」

 ユラリ、ユラユラ。煮え切らない感じで話している。

「なんか、あたし、ここを出たくないっていうか……。うまく言えないんだけど、なんかモヤモヤしてる」

 以前の真帆なら、同居の利点と弊害を表にしてみようとか、そんな感じのことを言っていたに違いない。でも、今回は終着点のないルナの呟きを延々と聞くことにする。というのも、前に、伯に言われた言葉を覚えていたからだ。

『女性は、みんな自分の事を語りたがっているんです。その扉を開いてあげれば、彼女達は色々と打ち明けてくれますよ』

 ルナの扉が開くのを待ってみよう。

 すると、ルナは、クッションを抱きかかえたまま話しだした。

「専業主婦が幸せっていうのは、洸ちゃんの価値感なんだよね。あたしが、そうなりたいって言った訳じゃないんだよ」

 へーえとか、そうなんだぁとか、色々と相槌を打っていると、ルナの呟きは、あっちこっちへと飛来していった。

「洸ちゃんは甘口カレーが好きだけど、あたしは激辛が好きなの」

「そ、そうなんだ」

「洸ちゃんの理想に合わせるのが愛だと思っていたけど、何だかモヤモヤするの。親子だけの生活って、変な言い方だけど、檻の中にいるみたいに思えて気詰まりしちゃうことがあるの。洸ちゃんは、専業主婦ってのは、特権階級だぞって言うのね。世間の女性の多くは、イヤイヤ、外で働いてるって言うの。だけど、本当にそうなのかな」

「確かに、社会に乗り残されるのか嫌でパートに出る人もいるね」

「だよねー。外とも繋がりたいよね。それに、自分のお金も欲しいよね。あたしだって、昔は、マジでカリスマ美容師を夢見てたんだよ」

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