ハニー・メモリー
どうすれば、先輩を満足させられるのだろう。もしかして、言葉攻めとかをしないと嫌われるのだろうか。
☆
最近、真帆は考えることが多くなっている。どうしたものかと悩んだせいで仕事も身に入らなくなっている。職場のデスクで溜め息を漏らしていると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
伯が神妙な顔で近寄ってきた。
「……ちょっといいですか。すみません。こないだは言い過ぎましたね」
そうか……。こないだのことを、クールな伯も気にしてたのか……。
真帆は引き出しの中から取り出した小さな包みを差し出していく。中味はクッキー。ダイソーで買った可愛い箱に入れて持ってきたのである。仲直りにはきっかけが必要だ。
「今朝、あたしが焼いたんだ。良かったら食べてみて。胡桃入りのクッキーなの」
その時、えっというような顔で真帆を見つめ返した。そして、フアッと朝陽が射したかのような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
安堵したように包みを手にしている。硬かった伯の表情が明るい方向へと浮上している。
真帆はいつまでも根に持つタイプではない。それに、あの時、伯が煮え切らない真帆に対して呆れるのも無理はない。伯に対して淡く微笑みながら言う。
「あの時はごめんね。色々、みっともないところを見せてちゃったね。自分でも分かってるの。脳内で妄想して萌えるイタイ女なの。こないだ従妹に言われたの。先輩とやり直すべきだって。とりあえず、先輩とキスしてみようかと思ってるの」
すると、たちまち伯の表情が夏の嵐の前触れのように翳り、その声が揺れた。
「本気ですか」
「うん。本気だよ。先輩にリードしてもらえたらいいんだけど」
あっ、駄目だ。こういう話を伯に打ち明けるのはよくない。それに、今は、仕事中だ。
仕切り直すように背中を向けると。生徒に関する資料を棚から取り出していく。
「あのね、道明寺エリカさんのことなんだけど、こないだの模試の点数、ひどかったよね。合格ラインは雲の上って感じだったね」
「すみません、僕の力不足です」
「君のせいじゃないよ」
エリカの場合は、どんな人が教えても無理だ。そもそも、彼女のモチベーションが低いのだから、どうしようもない。
親御さんの中には高望みをする人もいれば安全圏で受験したいと願う人もいる。エリカの母親は前者だ。しかし、ここまで無謀な要求を口にする人も珍しい。
真帆は、エリカのファイルをめくりながら嘆息していく。偏差値と志望校の乖離が激しくて、どうにもならないのである。
「エリカの進路を変更すべきなんだよね。どこまで家庭の事情に介入していいのか迷うわ」
とはいうものの、真帆の中では志望校を変えるように言うべきだという気持ちが固まっている。
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最近、真帆は考えることが多くなっている。どうしたものかと悩んだせいで仕事も身に入らなくなっている。職場のデスクで溜め息を漏らしていると、ノックの音が聞こえた。
「どうぞ」
「失礼します」
伯が神妙な顔で近寄ってきた。
「……ちょっといいですか。すみません。こないだは言い過ぎましたね」
そうか……。こないだのことを、クールな伯も気にしてたのか……。
真帆は引き出しの中から取り出した小さな包みを差し出していく。中味はクッキー。ダイソーで買った可愛い箱に入れて持ってきたのである。仲直りにはきっかけが必要だ。
「今朝、あたしが焼いたんだ。良かったら食べてみて。胡桃入りのクッキーなの」
その時、えっというような顔で真帆を見つめ返した。そして、フアッと朝陽が射したかのような笑顔を浮かべた。
「ありがとうございます」
安堵したように包みを手にしている。硬かった伯の表情が明るい方向へと浮上している。
真帆はいつまでも根に持つタイプではない。それに、あの時、伯が煮え切らない真帆に対して呆れるのも無理はない。伯に対して淡く微笑みながら言う。
「あの時はごめんね。色々、みっともないところを見せてちゃったね。自分でも分かってるの。脳内で妄想して萌えるイタイ女なの。こないだ従妹に言われたの。先輩とやり直すべきだって。とりあえず、先輩とキスしてみようかと思ってるの」
すると、たちまち伯の表情が夏の嵐の前触れのように翳り、その声が揺れた。
「本気ですか」
「うん。本気だよ。先輩にリードしてもらえたらいいんだけど」
あっ、駄目だ。こういう話を伯に打ち明けるのはよくない。それに、今は、仕事中だ。
仕切り直すように背中を向けると。生徒に関する資料を棚から取り出していく。
「あのね、道明寺エリカさんのことなんだけど、こないだの模試の点数、ひどかったよね。合格ラインは雲の上って感じだったね」
「すみません、僕の力不足です」
「君のせいじゃないよ」
エリカの場合は、どんな人が教えても無理だ。そもそも、彼女のモチベーションが低いのだから、どうしようもない。
親御さんの中には高望みをする人もいれば安全圏で受験したいと願う人もいる。エリカの母親は前者だ。しかし、ここまで無謀な要求を口にする人も珍しい。
真帆は、エリカのファイルをめくりながら嘆息していく。偏差値と志望校の乖離が激しくて、どうにもならないのである。
「エリカの進路を変更すべきなんだよね。どこまで家庭の事情に介入していいのか迷うわ」
とはいうものの、真帆の中では志望校を変えるように言うべきだという気持ちが固まっている。