ハニー・メモリー
痴呆症で記憶をなくしている妻に、自分達の若い頃の恋の話を聞かせるという内容で……。
途中から、その事に気付いた時、真帆の目頭はジンとなった。あの映画は、なんていうか、すごくロマンチックだ。
「ああいう旦那さんがいたらいいよね。つーか、君、案外、ロマンチストだね。大いなる遺産もフォレストガンプも初恋の女性を思い続けている話だよ」
「僕、こう見えて粘着質なんですよ。だから、主人公の男に共感しちゃうんです」
「フォレストガンプの映画では、人生はチョコレートの箱の様なものだって言ってたよね?」
「蓋を開けてみないと中味が分からない、という有名な台詞ですね」
エリートの東堂の心の蓋を開けたら、ドMの変態だったりする。ほんと、開けてみないと分からない。
「僕、主人公を演じるトム・ハンクの目の演技に惹かれました。擦りガラスの向こう側の世界から何かが訪れるのを待っているような表情が印象に残っています。幼馴染の女子に恋焦がれる眼差しが切なかったな。あの映画、色々な人間の奥深いところを刺激されますよね」
真帆も内容ははっきりと覚えている。主人公が愛する女性の生い立ちは、なかなかディープなものだった。映画では、はっきりと言葉では表さないが、女の子は父親によって性的な虐待をされて心に傷を負っていたのだ。
「ダン中尉も脚を失ったショックを乗り越えるのに時間がかかっていたよね。あれは、心に傷を負った人達が再生する話だね……。見終えた後、観る側も浄化されたような気持ちになったわ」
「ところで、真帆さんが好きな映画は何ですか?」
「クレヨンしんちゃんの映画が好きだったな。戦国時代の悲恋の話を観た時、すんごく泣いちゃったよ。似たような話なんだけど、のぼうの城っていう映画も胸に刺さったわ。なんか、すごく切ないの」
「そうですね。いい映画でしたね」
「君、他に好きな映画はある?」
「僕は、プリティーリーグっていう女子野球の話も好きですよ」
戦時中のアメリカが舞台だという。史実を元にして女性たちの青春を見事に描いているらしい。お互いに好きな映画について語った。リラックスしていた。大好きな焼き鳥を咀嚼するうちに、すっかり満腹になってきた。
(何だか不思議だわ)
伯の顔をまじまじと見つめていく。これまで何人ものアルバイト講師と接してきたが、こんなふうに親しく会話をした事がない。
でも、伯といると、なぜか自分から色々なことを語りたくなる。そして、伯のことを知りたいという欲求がどんどん沸いてくる。
伯と出会った日から、真帆は、己の黒歴史とも言える片思いのあれこれを話している。そういう意味では、今更、体裁を取り繕う必要も無い。だから、伯とは気兼ねなく何でも言える。こうなってくると、俄然伯の恋話も聞きたくなってきた。
「ねぇねぇ、君は彼女はいるの?」
途中から、その事に気付いた時、真帆の目頭はジンとなった。あの映画は、なんていうか、すごくロマンチックだ。
「ああいう旦那さんがいたらいいよね。つーか、君、案外、ロマンチストだね。大いなる遺産もフォレストガンプも初恋の女性を思い続けている話だよ」
「僕、こう見えて粘着質なんですよ。だから、主人公の男に共感しちゃうんです」
「フォレストガンプの映画では、人生はチョコレートの箱の様なものだって言ってたよね?」
「蓋を開けてみないと中味が分からない、という有名な台詞ですね」
エリートの東堂の心の蓋を開けたら、ドMの変態だったりする。ほんと、開けてみないと分からない。
「僕、主人公を演じるトム・ハンクの目の演技に惹かれました。擦りガラスの向こう側の世界から何かが訪れるのを待っているような表情が印象に残っています。幼馴染の女子に恋焦がれる眼差しが切なかったな。あの映画、色々な人間の奥深いところを刺激されますよね」
真帆も内容ははっきりと覚えている。主人公が愛する女性の生い立ちは、なかなかディープなものだった。映画では、はっきりと言葉では表さないが、女の子は父親によって性的な虐待をされて心に傷を負っていたのだ。
「ダン中尉も脚を失ったショックを乗り越えるのに時間がかかっていたよね。あれは、心に傷を負った人達が再生する話だね……。見終えた後、観る側も浄化されたような気持ちになったわ」
「ところで、真帆さんが好きな映画は何ですか?」
「クレヨンしんちゃんの映画が好きだったな。戦国時代の悲恋の話を観た時、すんごく泣いちゃったよ。似たような話なんだけど、のぼうの城っていう映画も胸に刺さったわ。なんか、すごく切ないの」
「そうですね。いい映画でしたね」
「君、他に好きな映画はある?」
「僕は、プリティーリーグっていう女子野球の話も好きですよ」
戦時中のアメリカが舞台だという。史実を元にして女性たちの青春を見事に描いているらしい。お互いに好きな映画について語った。リラックスしていた。大好きな焼き鳥を咀嚼するうちに、すっかり満腹になってきた。
(何だか不思議だわ)
伯の顔をまじまじと見つめていく。これまで何人ものアルバイト講師と接してきたが、こんなふうに親しく会話をした事がない。
でも、伯といると、なぜか自分から色々なことを語りたくなる。そして、伯のことを知りたいという欲求がどんどん沸いてくる。
伯と出会った日から、真帆は、己の黒歴史とも言える片思いのあれこれを話している。そういう意味では、今更、体裁を取り繕う必要も無い。だから、伯とは気兼ねなく何でも言える。こうなってくると、俄然伯の恋話も聞きたくなってきた。
「ねぇねぇ、君は彼女はいるの?」