ハニー・メモリー
 起きる時間が、曜日によって違うというのが身体の不調の原因のようだ。規則正しい生活をしたいけれど、そうもいかない。それなら、せめて、お酒は控えた方が良かったのかもしれない。

(だけど、伯といると楽しくて、ついつい飲んじゃったわ)

 真帆は、気だるい顔で洗面台の前で歯を磨きながら色々と思い返していた。

 今朝、変な夢を見た。すっかり老いぼれてしまっている犬の拾太郎が、真帆の鼻をベロベロと舐めるというものである。

 しかし、なぜか、途中から、犬が消えてしまい、その代わりに全裸の東堂がボンッと現れたものだから、真帆は、ひえーと慄いた、

 全裸の東堂は赤い首輪をはめていた。なんじゃこりゃー。倒錯的な恰好に真帆は腰が抜けそうになった。

 東堂は、犬の恰好のまま真帆の頬を舐めようとしている。うぜぇ。真帆は、ピシャッと蹴っ飛ばして追い払う。すると、彼は、ひどく悲しげな目でワオーンと鳴く。

 そして、四つん這いの姿勢で嬉しそうに言う。

『もっと叱ってくださいませ。女王様~ ハァハァ』

 きゃーーーー、キモイよう。勘弁してよ。ギョッとして目覚めた。

 駄目だ。なんて夢を見てしまったんだ。文字通りの悪夢である。目が覚めてからも心臓が悪い音を奏でている。

 ベッドから起き上がり一階に向かい、洗面所で豪快に顔を洗いながらも身震いしていた。

「うーーー。駄目だわ……。やっぱり、無理だわ」

 東堂はスーパーエリートで思いやりがあり、いつでも落ち着いてい。学生の頃から完璧だった。

(どうしても、先輩とドMってのが繋がらないんたよなぁ……)

 昔、剣道部の部室で盗難騒ぎが起きた事がある。貧乏な男の子がみんなから疑われた時も、先輩は名探偵のように推理していた。

『犯人は、あなただ!』

 結局、犯人は野球部の生徒だったのだ。あの時、東堂の名推理に誰もがキュンとなった。

(あたしの憧れの人だったのよ……)

 東堂を崇めている時が一番幸せだったと言っても過言ではない。

 真帆は東堂の見た目が好きだった。もちろん、中味も好きだけど、まずは外見が好みだったのだ。ギリシャの彫刻のように鍛え抜かれた胸板に直に触れてみたいと夢見てきた。

 ちなみに、TL漫画の中でオレ様系の男がセックスの最中に呻く様にして呟くシーンがある。

『君の身体は最高だ。よく締まってるね』

 どうすれば相手に尽くせるのか分からないけれども、柔道の技で良ければ締め上げる事も可能である。祖父から伝承した三角締めを披露して先輩をヒィーヒぃーと唸らせることも出来る。

『ああ、真帆……。もっと殴ってくれ』

< 50 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop