ハニー・メモリー
 ママが美馬と別れたのはエリカが三歳の時だった。エリカが少しも自分に似ていないので親子鑑定をしたところ、やはり親子ではなかったのでプライドを傷つけられた美作はおおいに激怒したという。

『ママ、新婚当初からホストクラブに通ってたのよ』
 
 当時、ママはホストクラブで知り合った二十歳のホストのロミオと浮気をしてエリカを産んだのだ。高齢出産だった。どうしても子供が欲しかったので、エリカを妊娠した時は泣くほど嬉しかったという。

『夫だった美作は、あたしの浮気を責めたけれど、あの人も浮気相手の看護師を妊娠させていたのよ。だから、お互いに別れて清々したわね』

 ちなみに、エリカは小学四年生の時、本当のパパが他にいることを知ってワクワクした。

『エリカの血の繋がったパパって、どんな人なの』

 すると、ママはあっさりと教えてくれた。

『優しい男の子だったわよ。新宿のホストクラブで知り合ったの。ロミオは笑った顔が可愛いかったのよ』

 エリカの実の父親のロミオ(本名八代浩)は、実家の山形に戻って結婚をして米農家を継いでいるとのことだった。

『ロミオ、お嫁さんをもらったみたいだから、ママは、エリカのことは内緒にするつもりなのよ』

 ママのガラケーに残っていた写真を見る限り、ジュのんボーイ系の優しそうな雰囲気だったのて安心した。
 
 ロミオはママ好みのパッチリ二重瞼の子犬ちゃん系の美青年だった。あの人が本当の父親で良かった。

 ママの心の中でロミオは良い思い出として生き続けているみたいだ。

『ロミオはお人よしだからナンバーワンなんて無理だったのよ。それに、困った事に算数が苦手だったわね。ちょっとお馬鹿さんなの、きっと、エリカは、あたしじゃなくてロミオに似たのね』

 現在、五十五歳のエリカのママは、今もホストクラブで豪遊している。

 ママは、子供の頃からエリートのスーパーウーマン。仕事も遊びも両立できている。

 でも、自分はポンコツの落ちごぼれでどうしようもない。ちゃんとした人が医師になるべきだ。美作の息子が医学部に行くなら、そいつに任せるというのもありだと思う。

(エリカこたいな子が医者になったら駄目だよ)

 そんな事を考えていると祖父が言った。

「ところで。東堂君とおまえは具体的にどのような関係なのだね?」

「おじさんはドMの変態なの。エリカ、痴人の愛のナオミみたいなことをやってるの」

「おおっ、それは風流だな」

 ほらね。さすが、おじぃちゃん。ちゃんと理解してくれる。おじぃちゃんも筋金入りのドMなんだもの。仕事に忙しい母親よりも祖父と過ごした時間の方が長かった。祖父は心筋梗塞を起こしやすい体質なので早々と引退していのだ。そして、エリカの子守をしてくれた。 

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