ハニー・メモリー
『おとなしい人よりもパワフルで大胆で奔放な人がいいな』

 クールで知的な東堂だが、保守的な女性は好まないようである。彼の友人もこう言っていた。

『真っ赤な下着とか着て馬乗りになって襲いかかってくるような女がいいらしいぜ。真帆ちゃんも、他の女子みたいに東堂に幻想を抱かない方がいいと想うな』

 そんなの分かっている。東堂にも性欲はある。もちろん真帆にもある。東堂に押し倒されて襲われてみたい。壁トン、床ドン。そこから、めくるめく官能の世界へと入ってみたい。今日という日を迎えるまで、東堂との甘い夜を夢想してきた。今夜、そうなる予定だった。

 ああ、それなのに……。

 空調の設定温度のせいなのか、それても急激に酔ったせいなのか、身体が蒸されたかのように暑くなってきた。カーッと身体の芯が火照ってきた。

「やだ、ここ、暑いわ……」

 グテングテンの状態でワンピースを脱ごうとすると、拾太郎が困ったような顔で咎めた。

「着替えたいのなら言ってください。後ろを向きますから」

 頭がぽやーんとしたまま、真帆は洋服に当り散らすかりように投げ捨てていく。ああ、もうやってらんない。結婚できると思って期待していただけにショックも大きい。こんな状態で一人になると色々と考えてしまう。もう死にたくなってくる。

「ねぇ、お願い。今夜はここにいて。あたしを慰めてよ。ほら、隣に寝転びなさいよ」

「……添い寝はできません。契約違反です」

 拒絶しないでよ、もっと優しくしてよ。真帆は泣きそうになりながら告げた。

「ねぇ、あたしって、そんなに魅力が無いかな?」

「いいえ、あなたは魅力的ですよ」

 拾太郎の表情は哀しげに曇っているけれども、酔っ払っている真帆は、相手の繊細な変化になど少しも気付いていない。

「今、魅力的って言ったわね! はい、それなら、あたしにことん付き合いなさい!」

 真帆は柔道の達人で寝技も得意なので、練習の場では、自分よりも背の高い男子を何度も締め技で屈服させている。

(帰さないわよ……。あたしに、とことん付き合ってもらうわよ)

 そのまま、グイッと拾太郎をベッドへと押し倒してねじ伏せていくと、よっこらしょと豪快にロデオのように青年の腰骨に跨った。

 真帆は目をトロンとさせていた。髪は乱れ、視界はフアフアと滲んでいる、お酒は好きだが、明らかに、今夜は飲み過ぎている。自分では気付いていないが、真帆は酔うとキス魔になる。今まで、女友達のほっぺをキスして嫌がられてきた。

 真帆は、意外にも寂しがりやで、人に甘えたいという気持ちを押し隠して生きている。

(あたしは、こんなにも惨めなのよ……)

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