ハニー・メモリー
 梅は、清楚で真面目で優しい東大卒の真帆の事をかなり気に入っている。もちろん、エリカも真帆のことは尊敬している。

(真帆先生はいい女だよ……。あの人はいつも清く正しく美しい。いつも、真剣に生きている。そういう凛とした美しさっていいよね)

 東堂は真帆に叩きのめされた時、天から舞い降りた女神を称えるようにうっとりしていたのである。髪を束ねた時の真帆は少年剣士のように凛としている。

 真帆の一本背負いを見た時はエリカも度肝を抜かれた。

 あれほどの体格の差をものともせずに、男を投げ飛ばすなんて、マジで凄い。

(真帆先生ってポテンシャルが高いんだよなぁ。柔道黒帯ってすげぇよな)

 うっかり、真帆が女王様としての才能に覚醒したら手に負えなくなる。真帆の美貌と武術のテクニックにエリカは迫り来る脅威をヒシヒシと感じていたのだった。

        ☆


 そして、ちょうど、その頃、真帆の自宅の前にベンツが止まったのだ。母が、インターフォに対応した。

「あらあら、真帆、どうしましょう。大変よ。東堂さんがいらしたわよ」

 真帆の母親はハイテンションになりながら、ハンサムな東堂の登場に浮かれている。

 ほらほら早くと真帆をせかしている。今日の真帆は休日なので、自宅でダラダラしと過ごしていたので化粧もしていない。驚きながらも慌てて出迎えた。

「東堂さん、どうして、ここに?」

「急に来てすまない」

 大切な話があるので車に乗って欲しいと言われた。

 東堂は深刻な顔をしている。とりあえず、十分ほど待ってもらった。パパッと着替えて、うっすらと顔に粉をはたいてから彼の車に乗り込んだのだ。

 エンジンをかける東堂の横顔は、相変わらず華やかだ。真帆がシートベルトを装着し終えると彼は言った。
 
「実は、先週、おばぁ様が心筋梗塞で倒れたんだよ。幸い命には別状はないが、おばぁ様も高齢で何かと不安になっている。早く、僕に結婚するように言っているんだ」

 東堂の結婚を見届けないうちは死ねないと泣いているという。

「色々と迷ったが、僕のような男を受け入れてくれる人は、見当たらない。君ぐらいしか思いつかないんだ」

「でも、先輩には、道明寺さんというバディがいるじゃないですか」

「いや、駄目だ。あの子は結婚をするような年齢ではないからね。いいか、真帆、結婚というのは、お互いの家族同士の相性も必要なんだよ。僕は、いつも、おばぁ様の期待に応えようとして生きてきた。早く、おばぁ様を安心させたい」

「だから、あたしと結婚するって言うのですか?」

 それは、あたしに対して失礼なのでは……? 何となく心が濁ってきた。真帆の顔は微妙に険しくなっていく。

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