ハニー・メモリー
「あ、ありがとうございます。あたし、今でも先輩が好きなんです。だから、女としてあたしを見て下さい。あの日、先輩と行く予定だったレストランに行きましょう。そして、あたしと一夜を過ごして欲しいのです」

 抱いて下さい。この気持ちは伝わったはずである。

「うん。分かった。今度こそ、君の願いを叶えるよ。君の都合のいい日を教えて」

「は、はい。連絡します」

 東堂に自宅まで送ってもらって帰宅した真帆はショッピングサイトを閲覧した。

 東堂が興奮するようなエロイ下着を購入しようとして張り切っていた。エリカとエリカの祖父の思惑など露知らずにデートのプランを立てていたのである。今度こそ、セクシーな下着を披露してみせるわと燃えていた。

(よっしゃ。やっと、あたしも処女を喪失するんだわ!)

 とにかく、手当たりしたいにユーチューブで研究していくうちに、久しぶりに高揚していた。頑張ることには慣れている。

(努力して愛される女になるわよ)

 ポールダンサーやストリッパーの所作を鏡の前で真似てみたりしたりして色々と試行錯誤していたのである。

 最近、読み始めたエッチな漫画の検索ワードはSMだ。もう、こうなったら、こっちの世界に馴染むしかない。

 あの人もエッチの時は、無知な真帆に気を使ってリードしてくれるはずだわ。ぜひとも、そうであって欲しい。さすがに、初夜の日にに、ひざまずいて足をお舐めとは言えない。

 というか、ドMの夫とドSの妻というのは、ベッドの中で交わる時、やはり、女の人が馬乗りになっていたりするのだろうか。ああ、謎だらけだ。

(ドMって、どういうことを言われると嬉しいのかな……。この豚野郎とか言わなくちゃ駄目なの? 言いたくないよ。先輩はギリシャ神話のアポロンなんだから!)

 SMの世界のことなど何も分からないが、人生はチョコレートボックス。蓋を開けてみないと分からない。ならば、女王様への扉を開いてみようじゃないか。

  
                  ☆


 東堂と復縁した翌日。出勤前の真帆は駅前にある大型書店へと出向いたのだ。

 ちょうど、職場に向かう通り道にあるので、以前からよく訪れている。

 SMについてリサーチしたい。しかし、興味があると店員に思われては困る。複雑な乙女心に揺れ動いていた。

(恥しがってちゃ駄目よ。真帆……。愛する人を理解するにはこうするしかないのよ)

 周囲の視線を気にしながら、拮抗縛りだとか鞭打ちの世界に関する書籍を立ち読みしていくうちに、ふと、鹿島茂先生の『SとM』というタイトルに心引かれて腕を伸ばしていた。だが、同じものを手にしようとしている若い女の子がいた。手が重なりそうになり、すみませんと退こうとしたのだが、その相手が誰だか分かった途端に真帆は面食らった。

< 67 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop