ハニー・メモリー
 白雪姫の継母の気持ちか今ならば分かるような気がする。自分は男性から愛されるのかしら? 不安な年増女の心の揺らぎというものが、お妃様を狂わせたに違いない。三十路の寂しい女の悲哀をヒシヒシと感じていた。

 もう、誰からも拒まれたくない。心はカラカラと妙な音を鳴らしている。こんな夜に一人ぼっちになるなんて嫌なのだ。慰めて欲しい。抱き締めて欲しい。何とかして欲しい。喪失してしまった自信を取り戻したい。魔法の呪文でも唱えるかのように囁いた。

「あたし綺麗?」

 肩甲骨まで伸びた長い髪には一度もパーマをかけた事がない。東堂が、黒髪の直毛のロングヘアが好きだと聞いていたからだ。サラサラ。サラサラ。黒髪を揺らしながら言う。

「抱いてみたいと思う? 好きにしていいのよ」

 真っ赤なブラジャーとテイーバックのパンティーを東堂に見せる予定だった。 こうなったら、奔放なビッチになってやるとばかりに、やけくそな気持ちのまま拾太郎に抱きついていく。

「あたし、悲しくてやりきれないの。こういう事でしか自分の傷を癒せない気がするの」

「そうですか……。それならお手伝いしますね」

 拾太郎が片手で自分の眼鏡をスッと外している。

 その時、真帆は呼吸を忘れそうになった。ドキッ。クソ真面目そうな若者の印象がガラッと変わっている。

(えっーー、この子、こんな綺麗な顔をしてたの……)

 ギャップに面食らいドキマギしてきた。彼は、真帆の狼狽を見透かしたかのようにフッと微笑む。そして、ゆっくりと半身を起こしながら告げている。

「本当にいいんですね?」

 口付けされると覚悟して目を閉じていると、なぜか、真帆のブラジャーをグイッと上にへとずらされていた。

(えっ、あたしの胸をどうするの? あらら、丸見えだわ……)

 当然の事ながら、真帆の小さな胸が丸見えになっている。彼は真帆を見下ろすと、華奢な身体のラインを瞳でなぞる。そして、挑むようにクスッと笑みを漏らした。

「小さくて可愛い胸ですね。野いちごみたいだって言われませんか?」

 真帆の首筋に唇を寄せると真帆の鎖骨へと這わせている。 

(なに、これ……)

 ヒェッと呻いて背中と尻を浮かせた。彼の手が胸に添えられると怖くなった。真帆は腹筋に力を込めて、相手のシャツのを引っ掴んでいた。相手の襟首を乱雑に引っ掴んで自らの足を押し上げると、相手の胴体を軽々と浮かせて華麗に巴投げを決めていく。

「おりゃーーーーー」

 真帆の技が炸裂していく。クルンと回転するようにして派手な音を立てながら、彼はベッドから転落する。真帆は荒い顔つきで彼を見下ろした。

「いきなり、何なのよーー。やらしいわね!」

 赤面しながらも、真っ赤なブラジャーのカップを正しい位置に直す。ああ、恥しい。ああ、はしたない。

< 7 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop