ハニー・メモリー
『少し遅れてもいいから待ってます。緊急手術をするかどうか、確認してから、もう一度、連絡して下さい』
一時間後、またメールが届いた。東堂は、申し訳なさそうに連絡してきた。
『今夜はやはり無理なようだ。別の急患か来てしまったよ。交通事故で、バイクの若者が転倒した。緊急手術をする。今度の君の休日にゆっくりと会おう。僕も、その日は休む事にするよ。今度は絶対にドタキャンしないと誓うからね』
それに対して真帆は納得していた。
(そうだよね。人命第一だもんね)
今後、医師の妻になるのだから、彼の仕事を応援したい。結婚後も、急に呼び出されるようなことがあるかもしれない。そうやって仕事に邁進する東堂を心から支えられる良き妻になるのだ。
(医療に全身全霊をかける先輩って、ほんとに素敵だわぁ~)
とはいうものの、処女喪失記念日になる予定だったのに延期……。ちょっぴり切ない。今夜こそは先輩と結ばれると思っていたのに、またもや、ドタキャン……。
(生理日との兼ね合いもあるから、やるなら、今夜がベストだったんだけどなぁ……。初体験は完璧なものにしたいな……)
真帆は夜の窓ガラスに映った自分の顔を見つめながら少し苦笑する。
すると、トントンとノックして伯が部屋に入ってきた。伯は、今夜、真帆が東堂と会う予定であることに気付いていた。
いきなり、ツカツカ踏み込んできたかと思うと、挑むような眼差しを向けて詰め寄ってきたのである。
戸棚へとファイルを片付けていた真帆は気迫に呑まれて立ち竦む。
「真帆さん、彼と会うつもりなんですね」
他の人達は退出しているので建物全体がシンとしている。実は、ほんの一時間前。真帆の知らないところで、こんなやりとりがあったのだ。
伯の個人授業を受けていたエリカが言ったのだ。
『王子先生、本当にいいの?』
『えっ、何がですか?』
怪訝な顔つきで伯は見つめ返す。
『エリカの目は誤魔化せないよ。王子先生が、真帆先生のこと、大好きなこと知ってんだよ。エリカの下僕が、真帆先生の初恋のダーリンなの。二人は、おばぁ様の為に結婚するつもりなの。それ、止めなくていいの?』
『はぁ?』
美形の東堂が、ああ見えてドMだということは真帆から聞いて知っていたけれど、エリカが、女王様だったとは、さすがの伯も知らなかった。
こんな偶然があるのかと戸惑いながら目を細める。
『あたしには分かるの。おじさんは、無理して真帆先生と結婚しようとしている。それに、真帆先生も、無理して、おじさんの癖に合わせようとしてる。そういうのって、いずれ、お互いに疲れちゃう』
『……君は、何のことを言っているのかな』
伯は、講師としてポーカーフェイスを貫こうとすると、ドンッとエリカがテーブルを叩いた。
一時間後、またメールが届いた。東堂は、申し訳なさそうに連絡してきた。
『今夜はやはり無理なようだ。別の急患か来てしまったよ。交通事故で、バイクの若者が転倒した。緊急手術をする。今度の君の休日にゆっくりと会おう。僕も、その日は休む事にするよ。今度は絶対にドタキャンしないと誓うからね』
それに対して真帆は納得していた。
(そうだよね。人命第一だもんね)
今後、医師の妻になるのだから、彼の仕事を応援したい。結婚後も、急に呼び出されるようなことがあるかもしれない。そうやって仕事に邁進する東堂を心から支えられる良き妻になるのだ。
(医療に全身全霊をかける先輩って、ほんとに素敵だわぁ~)
とはいうものの、処女喪失記念日になる予定だったのに延期……。ちょっぴり切ない。今夜こそは先輩と結ばれると思っていたのに、またもや、ドタキャン……。
(生理日との兼ね合いもあるから、やるなら、今夜がベストだったんだけどなぁ……。初体験は完璧なものにしたいな……)
真帆は夜の窓ガラスに映った自分の顔を見つめながら少し苦笑する。
すると、トントンとノックして伯が部屋に入ってきた。伯は、今夜、真帆が東堂と会う予定であることに気付いていた。
いきなり、ツカツカ踏み込んできたかと思うと、挑むような眼差しを向けて詰め寄ってきたのである。
戸棚へとファイルを片付けていた真帆は気迫に呑まれて立ち竦む。
「真帆さん、彼と会うつもりなんですね」
他の人達は退出しているので建物全体がシンとしている。実は、ほんの一時間前。真帆の知らないところで、こんなやりとりがあったのだ。
伯の個人授業を受けていたエリカが言ったのだ。
『王子先生、本当にいいの?』
『えっ、何がですか?』
怪訝な顔つきで伯は見つめ返す。
『エリカの目は誤魔化せないよ。王子先生が、真帆先生のこと、大好きなこと知ってんだよ。エリカの下僕が、真帆先生の初恋のダーリンなの。二人は、おばぁ様の為に結婚するつもりなの。それ、止めなくていいの?』
『はぁ?』
美形の東堂が、ああ見えてドMだということは真帆から聞いて知っていたけれど、エリカが、女王様だったとは、さすがの伯も知らなかった。
こんな偶然があるのかと戸惑いながら目を細める。
『あたしには分かるの。おじさんは、無理して真帆先生と結婚しようとしている。それに、真帆先生も、無理して、おじさんの癖に合わせようとしてる。そういうのって、いずれ、お互いに疲れちゃう』
『……君は、何のことを言っているのかな』
伯は、講師としてポーカーフェイスを貫こうとすると、ドンッとエリカがテーブルを叩いた。