ハニー・メモリー
 伯に背を向けて衣服を整えようとしたが、動揺しているせいでボタンが止まらない。すると、伯爵が留めてくれた。

 靴下はどこ? ソファの肘掛のところで団子虫みたいに丸まっている。真帆は、幾何学模様のブラウスのボタンをとめるとキッと睨み付ける。ポロポロと崩れそうになる心を鎮めたい。恥しい。こんなの耐えられない。

「もう、あたしのことなんて好きにならないで。早く忘れてよ」

 完全に拒絶したつもりだった。真帆はハンドバッグを掴んで外へと飛び出していく。残された伯は、過去から今日まで続く恋の記憶を辿るようにして瞳を揺らしている。心臓をギュッと掴まれた様な表情で胸に手を当てながら言う。

「いいえ。僕は、あなたを愛し続けます……」
    
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