ハニー・メモリー
 その翌日。真帆は出勤しようとして身支度しているとメールが着信していることに気付いた。伯からの連絡に真帆は身構えた。今は、距離をとりたいが、見ない訳にもいかない。

『身内に不幸が起こりましたので、急遽、三日ほど授業を休ませて下さい。勝手なことを言って申し訳ありません』

 もしかしたら、このまま伯はフェードアウトするのではないかしら……。

 昨日、あんな事があったので、伯も気まずいのだろう。真帆としては、このまま伯と会わない方がいいような気がしている。

 急用でデートはお預けになったけれども、今朝、東堂からメッセージが届いた。

『昨日はごめん。あさっての夜は空いてるかな? 君の望むような大人のデートしよう。君の誕生日に出来なかったことをしよう』

 あの日、できなかったこと……。つまり、一線を越えるということだ。ちゃんと東堂は真帆のことを考えてくれている。そう思うと胸がジンジンと高鳴り頬が緩む。

(今度こそ、あたし、彼と結ばれるのよ……)

 前回はエリカに気付かれてしまった。今回は地味な服装で出勤している。待ちに待った運命の日である。職場でソワソワしていた。

 いつ、デートのキャンセルの電話が入るか心配したが、無事に約束の夜を迎える事が出来た。待ち合わせの場所で東堂の顔を見つめると胸がキュンと弾んだ。ああ、他の男達が案山子に見える。やっと、今夜、理想の相手と一つになれるのだと思うと身が引き締まる。

「真帆の勧めたレストランはお洒落で美味しいね」

 幼少期から美食三昧の東堂。店の雰囲気と味に納得してくれて何よりだ。

「それじゃ、そろそろ行こうか」

 今夜は二人にとっては初めての聖なる夜。どんな素敵なホテルで結ばれるのか。この日を迎えるまでに真帆は色々と期待値を上げていたのだ。二人を乗せたタクシーは裏道へと入っている。

(あたし達の初めての夜迎えるのはここ?)

 てっきり、お見合いした時の様な外資系のホテルのスウィートルームで結ばれると思っていた。それなのに、ラブホテルへと誘われている。部屋に入ってみて分かった。ここは、『女王様の館』の姉妹店のようである。嫌な予感がする。

「先輩、まさか、ここ、道明寺さんと来た事はありせんよね」

「もちろん、そんな無粋な事はしないよ。僕も、そこまで無神経じゃないさ。僕も、このホテルに来たのは今日が初めてなんだ……」

 このホテルの料金を見てびっくりした。そこら辺の安いラブホとは格が違うようである。

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