ハニー・メモリー
「ああ、そうだね。告白するよ。あれは、僕が十五歳の夏だった……」

 東堂は昔からエリートで、誰からも尊敬されていた。それでも、当時から、ちゃんと性欲もあり女性に興味があったという。

「帰国子女の家庭教師の女子大生のシェリー先生が現われてから世界は一変した……」

 シェリーは痩せた狐のような顔のギスギスしたアジア系のアメリカ人だった。彼女はスパルタ形式で英語を教え込んだのだ。Rの発音はベロチューをして教え込む。

「とにかく、シェリー先生は気性が激しくて怒った顔が凄かった。時々、マジで殺されるかと思つたんだ」

 そして、東大に入学した夜、手足を縛られた状態で初体験をめでたく成し遂げたというのである。

「テキサス州育ちのシェリー先生の趣味は乗馬で暴れ馬に跨るのが得意だと笑っていた。僕は、シェリー先生から徹底的に身も心もしごかれたんだよ。ある意味、禁断のレッスンだった」

 シェリーは東堂を罵倒しながら正しい文法と発音を叩き込む達人だった。文字通り、本腰を入れて身体で覚えた事は忘れやしない。こうして、童貞時代から東堂のお相手を務めたシェリーだったが、東堂が東大を卒業するとアメリカに戻った。そして、数年後にロスの映画プロデューサーの妻になったというのである。

「彼女が消えた後、僕の心に穴が空いた。シェリー先生のような女性を捜し求めたが、彼女のような素敵な人には巡り会えなかった」

「なるほど、そういう事なんですね」

 真帆は、ベッドで正座をしたまま真面目に頷いていたけれども、異次元の世界にいる人と一緒にいるような奇妙な感覚が続いている。理解はするけれども共感する気にはなれない。

 世界線が違うというのは、こういうことなのかもしれない。

(大学時代、あたしが崇めていた時、この人は、シェリー先生と淫らなことをしていたのね、何も知らないで、学生食堂で待ち伏せとかしてたなんて……。あたしってピエロみたいだな……)

 東堂は、失ったものの大きさを噛み締めるように哀しい顔を見せている。

「いつまでも、ジェリー先生の幻影を追い求めた。何人もの女性とコンパで知り合ったけれど、誰にも惹かれなかった。けれども、ある日、ゲームの世界で、シェリー先生を彷彿させるエリカと出会って意気投合したんだよ」

「あの、前から疑問だったのでが、彼女は性愛の対象にならないのですか?」

「彼女が望んでも、それだけは駄目なんだ。おばぁ様に叱られるからね。僕は、子供には手を出さない」

「えーっと、だけど、それは、ホテルに入った時点でアウトのような気がしますよ」

「いや、あれは、お馬さんごっこなのだ。セックスはしていない。キスもしてない」

 お馬さんごっこの時点で充分エロイけれども、エリカは高校を卒業しているし、十八歳だから、まぁ、それはいいとして……。

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