ハニー・メモリー
「だけど、この先、エリカが二十歳になったらどうなんですか? あの子、あなたのことを男性として求めていますよ。エッチしたいって言ってますよ」

 すると、東堂はどこか照れたように目を伏せたのである。

「それは知らなかったな。改めて、あの子とセックスする事を考えるとドキドキしてきたな。何だか、恥しいような気もするね」

 その瞳は切なげに揺れている。そして、口許には柔らかな笑みがこぼれてる。真帆は、その表情の奥にあるものを見逃さなかった。それなのに、まだ、彼はこんなことを言っている。

「でもね、おばぁ様は、君との結婚を望んでいるんだよ。こんな僕でもいいと思ってくれるのなら、結婚したいと思っている。幸い、君は僕を慕ってくれている。結婚したら僕は浮気はしないと誓うよ」 

「エリカちゃんとのお馬さんごっこも辞めるんですか?」

「もちろん、君が嫌なら辞めるよ」

 ザワッ。真帆は、東堂の態度に引っかかりを感じていた。この人は、エリカへの気持ちを断ち切れていない。もう、何なのよと焦れてしまう。そして、ふと思った。この人は自分の恋に関して不器用だし、ある意味、鈍感なのかもしれない。

 あなたは心に蓋をしようとしているわ。ねぇ、エリカなしで、本当に生きられるのかしら。

「告白するよ。恥しいが、僕は、女性が上にいて僕を支配する体勢でないと興奮しない。上に乗って自由に腰を振ってくれないか。君が、どう責めてくれるのか知りたい。今夜、君のテクニックのすべてを見せてくれ」

 女性上位でないと射精しないと言われてクラクラと眩暈がしてきた。

「さぁ、早く、僕を痛めつけてくれ。これが本当の僕なんだ」

 女性が馬乗りになり、彼を締め付けるようにして激しく動く。東堂はにとっての完全な愛の形のようである。どんな痴態も愛さえあれば美しい。だけど……。

(体位の問題というより、精神的に彼の期待に添えられそうにないのよ)

 これまで、東堂のことを何も分かっていなかった。砂漠の旅人のように蜃気楼を追いかけていたに過ぎないのだと思い知らされた。変態だから嫌なのではない。

 ファンタジーに共鳴することは出来なのだ。それに、先輩は、本当は、エリカを求めている……。なんて不器用な人なんだろう。

(おばぁ様の期待に応えることを優先してきた結果、自分の心が見えなくなっているのね)

 大切なことは目には見えない。だけど、今、はっきりと真帆の心が叫んでいる。

「あなたは、あたしを愛してませんよね。自分の心に素直になった方がいいと思います。結婚の話はなかったことにします。あなたは、あなたの幸せを選んでください。あたしも、自分の幸せを追い求めます。さようなら」

 東堂に一礼してからバックを引っつかんで立ち去ろうとすると、彼は、切羽詰まったように手を伸ばした。

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