ハニー・メモリー
 そいつは乱雑に真帆をねじ伏せるようにしてアスファルトへと突き飛ばしたのだった。真帆は顔を歪めながら、どうしたらいいのか迷っていた。こいつは、そう簡単に倒せない。それでも闘うしかない。

 エリカを守らなければならない!
  
「ケッ。こざかしい女だな。オレは、昔、陸上自衛隊にいたんだよ。おまえみたいなガリガリのおばさんなんて屁でもないぜ。いきがってんじゃねぇぞ」

 身長は百八十五センチで体重は百キロといった感じである。華奢な真帆にとっては不利な状態だった。でも、エリカを守らねばならない。

「この子は嫌がっているのよ。やめなさい」
 
「うるせぇな。合意の上でやるのはいいんだよ」

「合意してないよ!」

 背後で叫ぶエリカに対して真帆は告げた。

「道明寺さん。あたしがここを食い止める。あなたは逃げるのよ。大通りに出たら誰かが助けてくれるわ」

「おい、そうはさせねぇぞ」

 真帆は軽く振り飛ばされていた。

 駄目だ。バサッと地べたに転がるようにして倒れ込んでしまっている。絶体絶命の状況になっていた。体格の差が大きいので、正攻法で責めたところで力では適わないと思い絶望して座ったまま後ずさっていく。

「真帆先生!」

 早く逃げて欲しいのにエリカは立ち止まっている。何をしているのかと目を凝らすと、お洒落なグッチのバックからとんでもないものを出してきたのである。

 それは大英帝国の海軍で使用していた鞭の復刻版なのだが……。

「真帆先生から離れろ。てめぇ、許さないからね。おっりゃーーー」

 バン、バンッ。いきなり、背後から激しく素早く男を鞭打ちしている。凄まじい鞭さばきだ。

「いてぇーー。ぐぅーー。くそーー」

 皮膚を切り裂くような痛みに悶絶してながら、男は地べたに座り込んでいる。革の鞭は、一生ものの傷跡が残るほどの破壊力を秘めている。だから、痛いのは当たり前。

 迷彩服の男は自分の腰に手を当てて、いてぇよと呻いており戦意を喪失している。真帆はスックと立ち上がると男の背後に忍び寄っていく。

(覚悟しないさよ)

 そのまま、暗殺者のように顎の下に腕をまきつけて両手を交差させ裸締めという技をくらわせてやったのだ。手ごたえはあった。よし、嵌った。こうやって脳の血流を圧迫しすると十秒ほどでどんな男も落ちていく。もちろん、この男も例外ではなかった。たちまち白目を剥いて失神している。

「やったね、真帆先生!」

 二人で、その場を離れながらも尋ねずにはいられなかった。

「あんなところで何をしていたのよ?」

「やーだ、それは、こっちの台詞だよ。真帆先生、おじさんを拘束したままホテルから出て行ったって聞いたよ。駄目じゃーん」

 東堂は、枕元にあったスマホを使ってエリカに救出してくれと連絡したらしい。

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