ハニー・メモリー
『あの子は、偏差値の低い私立の女子高に進学すると夜中にうちを抜け出して夜遊びするようになったの。不良のバイクに跨って走り回っていたの。でも、反抗していた訳ではないの。わたしたち家族とは仲は良かったのよ』

 それにしても、秀吉の父親は誰なのか……。梅も知らないという。東堂のハーフっぽい顔立ちが察するに、もしかしたら異国の人だったのかもしれない。

 生まれて直ぐに秀吉は伯父の養子になった。兄だと思っていた人達は実は従兄。本当の母親の愚考を中学生の時に教えたというのである。その時、東堂は静かに涙をこぼしていたという……。

『秀吉には二十歳まで恋愛というものを厳しく禁止したのよ……。それがいけなかったのかしらね。秀吉は、お見合い相手以外の女性を家に連れてきた事がないのよ』

 祖母と接する時の東堂は顔色を窺っているよう緊張感が漂っていた。真帆は、前から少し祖母との関係性が気になっていたのだ。東堂は、祖母の期待に沿おうと必死になって生きている。

 ふと気付いたのだが、エリカは東堂の実母の今日子に似ているような気がする。スッと腑に落ちていた。

(先輩は、あの子といると自由な空気を感じる事が出来たんだね)

 きっと、エリカが彼の人生に息吹を与えているのだろう。ふっと、何かを思い出したのか、エリカが優しい顔で呟いた。

「あのね、おじさんって毛虫とかゴキブリが嫌いなの。子供の頃、虫を怖がっていたら、おばぁちゃんに、ピシャッと定規で腕や背中を叩かれたんだってさ。男の子は泣いてはいませんって言われて育ったの。でもさ、本当は泣き虫なんだよ」

 やはり、彼等の絆は深い……。東堂は、心の底からエリカを信頼しているからこそ、子供の頃のエピソードを語ったのだ。

 真帆は、付き合っている間、彼が泣き虫だなんて思ったこともなかった。

「最初は、あたしにとって暇つぶしの相手だった。でもね、真帆先生と結婚するかもって考えたら急に胸がキュンとなって泣きそうになったの。絶対に手放したくないの。ねぇ、もう、おじさんとエッチしたの?」

「ううん。キスもしていないわよ」

 それを聞いたエリカの目にうっすらと涙が滲んでいるように見える。

 真帆は、クスッと微笑みホテルの入り口を指差しながら言う。

「ねっ、早く先輩のところに早く行ってあげてね」

 しかし、エリカはニヤリと悪魔のように笑うと腕を組んで言い放った。

「そんなの、ゆっくり待たせとけばいいんだよ。うんと焦らしてやるよ。お仕置きしてやらないと気が済まないよ」

「意地悪ね」

「ふふっ。愛のスパイスだよ。不安を煽った後で再会した方が楽しいじゃん」

 クスッと笑った後、エリカがポツンと呟いた。

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