ハニー・メモリー
「でも、あなた、鞭を持ってたのよ」

「前に職務質問された時、コスプレの小道具ですって言ったら信用してくれたよ」

「夜道は危険よ。先刻の男に気をつけてね、東堂さんと一緒に帰るのよ」

「はぁーい」

 その後真帆は一人で夜道を進んだ。

 それにしても、妙だ。伯はどうしているのだろう。

 先刻から、何度も電話をかけているというのに連絡がつかない。スマホを鞄に入れると、スーッと深呼吸した。

 落し物を探すような気持ちで夜空を見上げる。伯は、今、どうしているのだろう。

 だが、電車の中で、ふと、真帆は大切な事を思い出したのである。

(お葬式って言ったたけど、一体、誰が亡くなったのよ?)

 こんなに何日も休むなんて妙だ。なぜ、今まで気付かなかったのだろう。ザワザワと心か揺れて、ハッと息が止まりそうになる。グルグルと眩暈の様なものが頭を真っ白にさせていた。やだ、どうしよう。

(伯のお父さん、入院してたよね……)

 なんで……。こんな大切事を忘れていたんだろう。きっと、彼の父親がついに亡くなったのだ。胸が苦しくなり、背中を押し出されるかのように慌てて伯のアパートへと向かった。


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