ハニー・メモリー
「はい。同じベッドで寝るのかなと思ってたけど、真帆さんのおじぃさんの和室に布団が敷かれていました」

 その翌日、伯は真帆の家から児童相談所へと移されたのだ。もちろん、父親か退院すると、すぐに親子は再会している。

「真帆さんの自宅の朝食、とても美味しかったです。餡バタートーストとコーンスープでした。今も、その味を覚えています」

 伯は、最後の一枚のブリーフも脱ぐと浴室の椅子に腰掛けた。

「そうなんだ」

 真帆は、背後から伯の背中にシャワーの湯をかけていく。すると、全裸の伯は、椅子に座ったまま振り返って目を細めた。

「ああ、こんなのずるいな、真帆さんも裸になってよ。一緒にお風呂に入ろうよ」

 言いながら、伯は真帆を抱き寄せてキスをする。唇と唇は何度も擦れ合うようなキスを繰り返しながら、彼は、もどかしげに真帆の衣服を脱がせようとしている。

「やだ、やだ。ちょ、ちょっと待って……」

 そう言いながらも、真帆は自分でシャツのポタンを外し始めた。

 スルッとシャツを床に落としていく。

 スカートのファスナーを下ろしてしまうと、パンティも下ろしていた。こうやって、少しずつ肌が露出されていき、やがて、真っ赤なブラジャーのホックに手をかけてハラリと床に落とした時、ふと思い出していた。

(不思議だわ。初めて伯と会った夜も、こうやって自分から服を脱いでいたんだっけ。そして、あの時は伯に冷水をかけられたのよ……。懐かしいな)

 口許に笑みを残したまま真帆は浴室に入ってきたのである。

「お待たせ……。さぁ、洗うからね」

 そして、背中や髪を泡立ててマッサージしていく。こうして、裸体に触れていると男なんだなと感じる。ガリガリに痩せていると思っていたのに、こんなにも筋肉質だった事に驚いた。

「……真帆さんと、こうしているなんて不思議だな。夢みたいだ」

 この時、真帆はスポンジを手にしたまま彼の腕を洗っていた。まるで子供のように世話を受ける伯は照れたように目を伏せている。

「そうだよね。あたしも、すんごく不思議だよ。でも、前にホテルで君に冷水をかけられた時は怖かった。あれ、すごく冷たかったよ」

「……すみません」

「いいよ。あの時は、あたしが悪かったんだもの」

 真帆は、クスクスと微笑みながら、シャンプーの液体を伯の頭に垂らしていく。

 すると、彼もシャンプーの液体を真帆の長い髪に垂らした。床に座ったまま、向かい合って二人で髪を洗い合う。ザー、ザー、互いの身体にお湯をかけあい、二人揃って汗を落として綺麗になると、狭い湯船に浸かったのだ。

 伯が前。真帆は背後から腕を回して抱きつくような形のまま彼の耳元で囁いた。

「こんなの恋愛ドラマの世界だけだと思ってた」

「こんなのって?」

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