ハニー・メモリー
 いただきますと呟くと、伯が作ってくれた朝御飯をゆっくりと味わった。そして、食器を綺麗に洗ってから片付けると、衣服を身につける。

 幸い、昨日、東堂とエッチをする予定だったので着替え化粧ポーチを持参している。

 これが人生で初めての彼氏とのお泊りなのね。そう想うと感慨深いものがある。うれし恥しい朝帰り。ランラン。

 やっと、真帆は真実の愛に気付くことが出来たのだ。彼と一緒に眠れて幸せだった。

 さぁ、そろそろ、真帆もここから出るとしよう。母親には、仲のいい友達と過ごしたとうふうに嘘をついている。

(まだまだ時間はあるね……)

 いったん自宅に戻って、夕食用のお弁当を作ってから職場に行こうと思ったのだ。

 靴を履いて部屋の外に出てから、しっかりと鍵をかけた。

(うん、ちゃんと戸締りもしたし、さぁ、帰ろう)

 すると、なぜか、アパートの階段を駆け上がる音が聞こえてきた。甘いテイストのガーリーなワンピースが似合っている。見たところ、十八歳ぐらいに見える若い娘がこっちを見ている。

「ねぇ、おばさん、伯君の部屋で何やってんの」

「えっ、どなたですか」

 アイドルみたいに可愛い顔をしているというのに、態度がふてぶてい。真帆に対して剣呑な眼差しを向けている。

「あんた、親戚のおばさんか何かなの? あたし、伯君の友達から聞いたんだ。お葬式だったらしいね」

 甘ったるいアニメ声なのに刺々しいし目付きは好だった。目上の人への失礼な態度に真帆はムッとなるけれども、彼女は苛立ちをぶつけるように話している。

「つーか、おばさん、誰なんだよ」

「王子さんのバイト先の上司です。あなたは?」

「ねぇ、バイト先を教えてよ。あたし、そこで伯と会うわ」

「こ、個人情報を簡単に教えられません。あなた、何なのですか」

「同級生の須藤っていうの。あたし、伯の子を妊娠したの。認知してもらいに来たの」

「はぁ?」

 意味が分からない。

「あの、王子君は大学生ですよね……。あなたも学生のように見えますが……」

 この子と話しているとムカムカする。目鼻立ちは可愛いのに醸し出す空気が歪だ。いちいち、偉そうな態度をとるので見る者を不快にさせる。

(この手のタイプの子は学校では苛められるだろうな……。だけど、本人は、自分のどこがいけないのか分からなくて、泥沼にはまるタイプだな)
 
 この娘にはエリカのような人懐っこさはない。やけに冷静に査定するような目で見ていると、彼女はムスッと拗ねた。

「嘘じゃないもん。近所のクリニックで検診したもん、胎児のエコーもあるんだよ。ほーら、母子手帳もあるんだよ。前に、一度、伯の家に泊まったの。その時の子だよ」

< 94 / 125 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop