ハニー・メモリー
 エコーの画像や母子手帳の中味の画像まで見せられ、真帆の表情が石膏像のように強張った。ザワザワと胸騒ぎが始まった。どう見ても母子手帳は本物のようである。

 真面目に定期健診を受けているようなのだが、妊婦のようには見えない。しかし、腹部がダブツとしたワンピースを身につけている。

(妊娠しているって、本当なのかな)

 チラチラと腹部の辺りを見つめる真帆。

 それに対して須藤は食ってかかるようにして叫んだ。

「ていうかさぁ、なんで、バイトの上司のおばさんが伯君の家の前にいるの!」

「た、単なる家庭訪問です……」

 少し目を逸らして適当な嘘をつくがハラハラしていた。立場上、この部屋には泊まっていない事にしておかないとヤバイのである。

「ふうん。そうなんだぁ」

 そう言うと、彼女は、アパートの部屋の扉にもたれたまま、どこかに電話をかけ始めた。伯の部屋を覗きこみながら納得したように頷いている。

「ほんとだ、伯、部屋にいないようだね」

 どうやら、伯に電話をかけて室内にいないかどうかを確認しているらしい。少なくとも、この子は、伯の携帯番号を知っている……

「それじゃ、あたしは仕事があるから。もう行きますね」

「バイト先で伯に会ったら、言っておいて。須藤が妊娠しているって」

「わ、分かりました」

 固い顔でそう言うと真帆は逃げ去っていた。しかし、住宅街の中にある空き地の前で立ち止まり降り返った。妊娠……。本当なのだろうか。疑惑の渦に呑み込まれてしまいそうになる。すぐにでも伯と話したい。

 頭が真っ白になる。理解が追いつかない。息苦しいほどに嫌な予感が膨らんでいる。次第に、爽やかな景色が一転して不穏な空気に包まれていく。

(ねぇ、伯、お願いだから、そんなの嘘だと言ってよ)

 思考も呼吸も止まったような、そんな感覚になって胸が苦しいのだ。

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