ハニー・メモリー
7
早速、塾の執務室に伯を呼び出していた。

「まさか、あいつの嘘を信じるんですか」

 今朝、須藤から聞いた内容を話すと伯は顔をしかめていた。怒っているような、それでいて傷ついているような目をしている。

「確かに、須藤が僕の部屋に一度だけ勝手に泊まった事はありました。でも、僕は、絶対に須藤には手を出したりしません。あんな子に興味はありませんから」

 伯の声も顔つきも尖っている。

「あいつ、ちょっと頭がおかしいんです。真帆さんも、あいつと話したのなら、あいつが普通じゃないと分かるでしょう? あれはストーカーです。妊娠したと言えば、僕と話せると思ったんですね」

 そう告げながら、わずらわしげに顔を歪めている。ここまで伯が誰かを強烈に嫌悪するのは珍しいことである。

「中学の頃から、毎年、僕の誕生日に告白してくるんです。もちろん、いつも断っていますよ。僕の好みではありません。バレンタインのチョコレートも受け取りを拒否してきました。あいつは、クラスで浮いていましたよ」

 
 須藤雪姫は伯と同学年で、その当時から、女達に嫌われていたという。

「僕は、須藤に見向きもせずに、だけど、刺激しないように注意しながら距離を置くようにしてきました。でも、須藤はそんな僕を追い駆け続けていました。異常とも言える執念を燃やしていました。僕の隣の席の女子に嫌がらせをした事もあります」

「ど、どんな嫌がらせ?」

「その女の子の机の中に犬の糞を入れていました。まだまだあります。あれは高校一年のことでした。僕が好きになった人の下駄箱に乳液入りのコンドームを置きました」

 なんて事をするんだ。だけど……。

「なんで、須藤さんがやったと分かるの?」

「下駄箱に何か入れる様子を見た同級生の女子がいましたからね。でも、須藤は、しらばっくれていましたよ。僕の隣にいるというだけで嫉妬していたみたいです」

 げっ。マジか? 嫉妬する気持ちは誰にでもあるとはいうものの、須藤はやることがエグイ。

「その後、僕は年上の彼女を作りました。僕は、恋人だった女性は部活の先輩です。須藤は、懲りずに、僕の恋人の悪口を他校の男子に言いふらしました。パパ活をしていると……。その噂のせいで、その女性は悩んでいました。」

 振り返るうちに当時のことが蘇ってきたのか悔しげに声を震わせている。

「須藤は病んでます。最高にヤバイ女なんです。真帆さんも、彼女に振り回されないように気を付けて下さい」

「でも、なんで、そういうイタイ子を自分の部屋に泊めたのかな?」

 そこが解せない。すると、伯は頭を掻きながら謝罪した。

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