ハニー・メモリー
私立の名門の短大に進むつもりでいるらしい。何しろ、国語の成績はいいので英語の弱点を少し補えば志望校に合格するだろう。前途洋々だねと言うと、エリカは顔を少し曇らせた。
「それなんたけどね、おじさんのおばぁちゃま、エリカのこと認めないって怒ってるみたいだよ。あーあ、参ったなぁ。今も、真帆先生の方がいいって言ってるらしいの。まぁ、そりゃそうだよね。エリカ、おじさんと歳が離れているし、浪人生だもんね」
「そのうち、おばぁ様も賛成してくれるわよ」
「あっ、ごめん。真帆先生の相談に乗るつもりできたのにね、あたしったら、自分の幸せ自慢しちゃってるね。とにかく、その須藤って女のこと、エリカが調べてあげるよ。須藤の家の近所の産婦人科を当たってみる」
エリカの祖父の人脈は広い。
須藤が通っている産婦人科にツテがあるというのである。まぁ、本来は、他人のカルテを覗くのは御法度なのだが……。藁にもすがる想いだった。
(須藤さんは、本当に妊娠してるのな? もし、そうなら、あたし、耐えられないわ)
一体、何が真実なのか分からなくなっている。とにかく、こんな状況なので真帆は伯に対して距離を置いていた。昨日、食事に誘われても、それはきちんと断っている。もちろん、あれから、一度も伯のアパートにも行っていない。
伯も、いつもなら真帆に近付いてくるのに、最近は、微妙な距離をとっている。もしかしたら、何か後ろめたいことがあるのではないかしらと危惧していたのである。
どっちみち、夏期講習の準備が忙しい。夏休みの間だけ参加する生徒さんもいる。己の恋愛にかまけている場合ではなかった。
塾の本部からのノルマを達成しなければならない、さぁ、生徒達をビシバシ鍛えよう。親御さん達に夏期講習の重要性を説明しよう。
とりあえず、エリカの調査結果が出るまでは伯とは会うべきではないと思っていたのである。
☆
梅雨も終わりに近付いていた。朝から快晴でアスファルトが歪みそうになっている。
七月になったというのに真帆の自宅の部屋のエアコンが壊れてしまったせいで今日は疲れている。地獄のように蒸し暑くて、この三日間は、ほとんど眠れなかった。今日の午後、エアコンの業者さんが来てくれるというので期待しているのだが……。
(ほんと、やだわ……)
しかし、この後、もっと真帆を悩ます出来事が続発するのである。突然の電話に慌てふためいた。
「ええーーーー。交通事故ですか?」
生徒からの信頼も厚いアルバイト講師の千原音瑠からの連絡に目を見開いた。彼女が車に轢かれて入院したという知らせが入ったのである。お見舞いに行くと、思ったよりも元気そうで安心した。本人は、車椅子生活になってしまったと嘆いているが、命には別状ない。骨折か治れば普通に歩けるという……。
「それなんたけどね、おじさんのおばぁちゃま、エリカのこと認めないって怒ってるみたいだよ。あーあ、参ったなぁ。今も、真帆先生の方がいいって言ってるらしいの。まぁ、そりゃそうだよね。エリカ、おじさんと歳が離れているし、浪人生だもんね」
「そのうち、おばぁ様も賛成してくれるわよ」
「あっ、ごめん。真帆先生の相談に乗るつもりできたのにね、あたしったら、自分の幸せ自慢しちゃってるね。とにかく、その須藤って女のこと、エリカが調べてあげるよ。須藤の家の近所の産婦人科を当たってみる」
エリカの祖父の人脈は広い。
須藤が通っている産婦人科にツテがあるというのである。まぁ、本来は、他人のカルテを覗くのは御法度なのだが……。藁にもすがる想いだった。
(須藤さんは、本当に妊娠してるのな? もし、そうなら、あたし、耐えられないわ)
一体、何が真実なのか分からなくなっている。とにかく、こんな状況なので真帆は伯に対して距離を置いていた。昨日、食事に誘われても、それはきちんと断っている。もちろん、あれから、一度も伯のアパートにも行っていない。
伯も、いつもなら真帆に近付いてくるのに、最近は、微妙な距離をとっている。もしかしたら、何か後ろめたいことがあるのではないかしらと危惧していたのである。
どっちみち、夏期講習の準備が忙しい。夏休みの間だけ参加する生徒さんもいる。己の恋愛にかまけている場合ではなかった。
塾の本部からのノルマを達成しなければならない、さぁ、生徒達をビシバシ鍛えよう。親御さん達に夏期講習の重要性を説明しよう。
とりあえず、エリカの調査結果が出るまでは伯とは会うべきではないと思っていたのである。
☆
梅雨も終わりに近付いていた。朝から快晴でアスファルトが歪みそうになっている。
七月になったというのに真帆の自宅の部屋のエアコンが壊れてしまったせいで今日は疲れている。地獄のように蒸し暑くて、この三日間は、ほとんど眠れなかった。今日の午後、エアコンの業者さんが来てくれるというので期待しているのだが……。
(ほんと、やだわ……)
しかし、この後、もっと真帆を悩ます出来事が続発するのである。突然の電話に慌てふためいた。
「ええーーーー。交通事故ですか?」
生徒からの信頼も厚いアルバイト講師の千原音瑠からの連絡に目を見開いた。彼女が車に轢かれて入院したという知らせが入ったのである。お見舞いに行くと、思ったよりも元気そうで安心した。本人は、車椅子生活になってしまったと嘆いているが、命には別状ない。骨折か治れば普通に歩けるという……。