別れて15年 〜35歳の2人〜

懐かしい匂い

「これ、ありがとう」

真っ直ぐ目を合わせられず、視線を外しながらジャケットを返す。

「え、なんで俺のジャケットって分かったの?」

素直に驚いている様子の悠(ゆう)。

異常に速い鼓動を必死に抑え、冷静を装う。

「ん~、なんとなく?当たった?笑」

笑ってみるがぎこちない。

無理もない、
"あなたの匂いがした"なんて言えない。
15年前の当時の情景が一瞬で思い出されて、大好きだった人の大好きな匂いがしたなんて。

そんな私の心情を知ってか知らずか懐かしい笑顔で話し出す。

「当たりだわ、すごい勘だな!
てか、久しぶりだな。元気だった?」

「うん、元気。
シワとシミが増えたけど」

「あはは、桃は童顔だからまだまだ若いよ」

桃...名前を呼ばれてまたドキっとする。

「悠は?元気だった?」

「おー、元気元気!まだまだ現役で自転車乗ってる」

そう、悠はプロの競輪選手。
まだ自転車は高校の部活でやっていて、プロを目指している、その頃から4年間私たちは付き合っていた。

私たち2人が話していると、当時を知る旧友たちがチラチラこちらに視線を向けてくる。

あ、そうだ。

「今日、高橋さんは...?」

「あ、あー、息子が体調悪くて欠席。家にいるよ。高橋って旧姓久々に聞いたわ!」

高橋さんは悠の奥さん。
私も悠も高橋さんも同じ中学の同級生だった。
高橋さんとはほとんど接点がなく、ほぼ同級生は名前で呼び合う年代だったが、"高橋さん"から"葵(あおい)ちゃん"になることはなかった。

奥さんが高橋さんなのも、息子くんがいるのも、風の噂で知っている。

田舎あるあるだろうが、どんな情報も勝手に入ってくる。知りたかろうが知りたくなかろうが、勝手に。

だから、悠と私が付き合ったのは高校に入ってからだったが、中学の同級生も私たちが付き合っていたのを皆んなが知っている。

もし、今日私たちが話しているのを高橋さんが見たら嫌な気持ちにならないかが気になった。

久々に話すことにドキドキしているとは言え、もう15年も前に終わった関係、特別踏み込んだ話をしているわけではないが、奥さんが嫌がるなら話すべきではないと思った。
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