あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 慌てて声がした方向に向き直る。

 見れば隣には顔には包帯を巻き、血だらけのジャケットを羽織っている男がいる。

 ご丁寧に、ジャケットが裂けたところからはパックリと口を開けているように見える生傷メイク付である。

「びっくりしたー。こんばんは」

「こんばんは。お嬢さんは楽しんでる?」

「まあまあ、ですネ。……あれ、私のこと」


 見破られて、里穂は目をまん丸くした。

 男がニコッと笑う。
 すると、包帯越しでもきつかった眼差しが予想外に和らぎ、可愛くなった。

「うん。細いのはともかく、ラインが柔らかいからね。気づく奴は気づく」

 自信たっぷりに言うのだから、彼は女性を見る目があるのだろう。

 人見知りする里穂を緊張させることなく会話に導いてくれている。
 二十五の自分よりは世慣れた匂いがする。

「モテリーマンのおにーさんは見抜いたと」

 指摘してやれば、ち、ちと指を立てて否定してくる。

 ん?と首を傾げれば、胸を手にあて小腰をかがめた大袈裟な挨拶をしてみせた。

「お嬢さん、俺は火傷男(フライマン)シンゴだ。以下、お見知り置きを」

「里穂だよ」

 互いにグラスを掲げるとハロウインナイトに乾杯した。

 
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