あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 二人で壁に寄りかかりながら、里穂はシンゴの目を盗んではチラチラと彼の方を見る。
 わざと襤褸(ぼろ)のようにしているジャケットから窺い見れる体は細身ながら筋骨隆々としている。

 視線を感じたらしく、シンゴが里穂を見た。

「何?」

「おにーさん、何かのスポーツ選手ですか?」

「最近は走り込みや水泳くらいかなあ」

「へー、えらいですねー」

 里穂は感心した。

 スタイルもいいし、身長も高い。きっと、意識高い系のエリートサラリーマンなのだろう。

 シンゴも訊ねてきた。

「君は何してる人? まさか中学生じゃないだろうし」

「こう見えても成人しまくってます。んー……あえて言うなら、魔法使いを待ってるシンデレラかな?」

「玉の輿狙いってこと?」

 シンゴの問いに、彼女はプッと吹き出した。

「残念! この格好で玉の輿狙ったらBLになっちゃう」

 ただ、こんな格好をしても自分を女性とわかってくれる男性と出逢いたかったのだ。
 ……その願いは図らずも、シンゴのおかげで叶った。

 シンゴは里穂の言葉を咀嚼するかのように首を傾げた。

「ビー……える? ああ、男同士の恋愛ってやつ?」

 納得したあと。

「だから、君のそばにいる」

 おちゃらけるのかと思いきや、シンゴは静かな声で肯定した。

「へ?」
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