あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 自分も妊娠中、同僚に助けてもらった。
 回り回って、ほかの妊婦がサポートしてもらえるのは良いことだ。

 そう思おうとするのに、明日から慎吾がいないのだと考えるだけで寂しくて仕方がない。

「なるべく早く帰る。連絡もマメにする。愚痴でも不満でも、なんでも言ってこい」

 帰ってくると約束してくれているのに、たった一週間彼が隣にいてくれないだけで不安になる。

 ……自分はこんなに弱い人間だったのかと愕然となる。 

「申し訳ない。ワンオペにならないよう、シッターを頼んでいく」

 慎吾がすまなそうに告げても、里穂はどこかぼんやりとしか受け止められない。

「おかしゃ」

 慎里がぎゅ、と彼女の服を掴む。無意識に、我が子の体温を求める。

「慎吾、私なら大丈夫。保育園もあるし、シッターさんは要らないよ。慎里。明日、お父さんに元気で行ってらっしゃいしようね」

 無理やり自分に言い聞かせた。

 
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