あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜

近づいた唇、もどかしい心

 ——里穂の独り言に、慎吾は慎里とこっそり顔を見合わせた。

 出張のたび大騒ぎするのは、もはやイベントとなりつつある。

「そりゃー、好きな娘と一緒に寝るのは男のロマン……」

 あぶう、と慎里も同意しているようだ。

 慎吾の部屋のベッドはキングサイズだからシングルよりは布が大きい。
 マニュアル通りの美しい所作のはずなのに、小柄な彼女だと巨大な布と格闘しているようにしか見えない。
 
「……頑張りすぎるなよ?」

 心配されているらしい。
 そんな時、慎里もそうだとばかりにうーあーと声を張り上げる。

「学ぶことが楽しいし、活かせる場所があって嬉しいの」

 里穂はニコっと笑い返す。

 正直、覚えるのに四苦八苦している。
 実務経験者である里穂ですら、授業の内容は濃いので追いつくのに必死だが、楽しくて仕方ないのだ。
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