あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
「このワシ、R市議員の戸黒大三が視察に来てやっているんだ! ほかの客は締めだすべきだろう!」

 大声にびくついて泣く子供もいて、あたりはピリピリした雰囲気だ。

「ですが、私どもに引き継ぎがありませんでしたので……」

 責任者らしきスタッフが及び腰で告げている。

「怠慢だ! ワシは昨晩の八時すぎには『明日行く』と連絡してやったんだ。社長以下、出迎えてしかるべきだろうが!」

 男が派手なジェスチャー付きで喚いている。

 男性の怒鳴り声に慣れていない慎里は、みるみる顔をくしゃくしゃにし、うわあああんと泣き出した。

 勘に障ったのか、戸黒という男が里穂達の方を向いてまた怒鳴った。

「うるさい! ワシが大事なことを話しているんだ、静かにさせんかっ」

「お言葉だが、ここは子供が遊ぶ場所だ。あなたの居丈高な声に皆、怯えている。自制していただきたい」

 大泣きの慎里を庇いながら、慎吾が男性に告げた。
 男が慎吾を下からねめつける。

「ああ? どこの青二才が物を言ってる。……んんー?」

 慎吾に対してさらに絡もうとした戸黒がふと、慎吾の陰から慎里をあやそうとしている里穂に目を止めた。
 三人に近づき、ジロジロと彼女を眺める。
 やおら。

「お前、旅館の娘か!」

 割れんばかりの大音声で呼ばわれて、里穂の体がはねた。
 ついで男の顔を見て、真っ青になる。
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