あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 あの日。
 父親が出ていったと思ったらすぐに戻ってきて、『燃えてる!』以外に何かを叫んでいた。 

 ――お父さん、全てをひっくり返せるような、大事なことを言っていたんだよね? 教えて。

 里穂は必死に記憶をたぐっていると、突如脳内に父の声が再生された。

 
「あの時、父は」

 思い出した、『ボイラー室が燃えてる!』と叫んだのだ。

「あの日、」

 里穂の口から普段とは全く違うしわがれ声が漏れ出る。
< 139 / 229 >

この作品をシェア

pagetop