あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 『おかえりやす』は山が迫っていて景色が素晴らしい分、建物近くまで鹿や猿がうろつく。

 侵入を防ぐ為に広範囲にわたって電流が流れる柵を設けていた。

『動物避けの柵がどこか切れたんだろう、見回ってくる』

 そう行って父は懐中電灯を持って出かけ、すぐに戻ってきた。

『ボイラー室が燃えてる! 鍵を壊されてた! くそっ、あいつら、まさかここまでするとは……! 里穂、お前は消防署に連絡したら、ここにじっとしているんだ。お父さんとお母さんは客を避難させて火を消してくるから!』

 父はたしかに、そう言っていた。

 なのに、ニュースでは全く違う場所が出火場所と報じられる。

「なんで厨房から出火したことになってたの。厨房と私の家はどこよりも近かった。あそこから火が出たら、私が一番先に燃えてた」

 冷徹な里穂の反論に男が目に見えて狼狽えた。
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