あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 地図アプリで住所を検索すると、航空写真がアップされる。

 旅館【おかえりやす】が建っていた場所は山腹の途中にある。

 北は山が連なり、南は崖下に町が広がっている。
 西側には県道と思しき道がつづら折りのようになって町まで伸びていた。

「ここに旅館が建っていたの」

 里穂が指し示した部分だけ、崖の上でバルコニーのように平らである。

「県道ができるという噂を聞いてから、父が若い頃からショベルカーを使って自分で土地を(なら)したと聞いた」

 慎吾はタッチペンとタブレットを操作して、里穂に敷地と覚えている範囲で建物を書き込むよう指示する。

 里穂は一生懸命当時の風景を思い出しながら、何度も書き直した。

 県道と並行に空き地と建物が一つ、そして建物に隠れるように東側に小さな家が一つ。

 小さな家を里穂が指し示した。

「これが私達の家で、お祖父ちゃんが建てた山小屋」

 旅館は半地下に厨房とボイラー室、自家発電機の置いてあった小部屋。 
 一階の北側が女湯と男湯、南側が食堂。二階が客室だった。

「ボイラー室は?」

 慎吾が聞くと、里穂は北の山腹側を示した。浴場の真下だ。
 慎吾が炎のマークを建物の北側に書き込むと、里穂が顔を歪めた。

 慎吾が彼女の手をなだめるように、ぽんぽんと優しくたたいてやる。
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