あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
『癒着なんて生やさしいものじゃない、これは現職議員による殺人未遂だ』

『ありえない。ファイアーマンの風上にもおけない』

 記者や消防署勤務者と思われる発言もあり、小さな火種は風を得て大きく育っていく。

 真偽のほどはわからないが、あの日の里穂の無線を傍受し消防署に連絡してくれたという発言もあらわれた。

『悲痛な声で女の子が叫んでいる音波が飛び込んできた。家が燃えているのに消防車がこない。電話でも無線でも連絡しているのに返答すらない。誰か代わりに呼んで欲しい』と。

 当時の傍受の記録を音声データとして貼付したSNSは、少女の恐怖や生家が燃え崩れていく悲しみを生々しく伝えていた。慎吾が煽らなくても、それこそ熱波の勢いで伝播されていく。

 ついには一つ一つの炎が縒り合わされてうねりとなり、噴き上げた。
 
 ——『事故ではなく事件だ。現場検証の記録を明らかにせよ』——

「俺の大事な里穂を辛い目に遭わせ、慎里を泣かせたことを後悔させてやる」

 慎吾は唇だけつりあげた。
< 156 / 229 >

この作品をシェア

pagetop