あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 職場に保育園があるから、隙間時間に覗きにいける。
 休憩もしっかり取れるようになったから、ベビーモニターのアプリを起動すれば園内の様子もわかる。

 宿泊客も一時保育が利用出来るし病児保育制度もある。

「『入れたい私立保育園ランキング』で常に上位に入ってるの、うなずける」

 しかも社員割引で、公立とほぼ同額である。
 保育士もエスタークグループの社員だから、ホテルスタッフと同じくらいのサラリーを得ている。

「きつい仕事してる人には厚い給料を、がうちのポリシー」

 聞けば聞くほど素晴らしい。

 給料が高ければ離職率が低くなるし、年数を経るほどスキルは熟練されていく。
 スタッフの行き届いたサービスは、客にまた来ようと思わせる。

「エスタークが平日でも稼働率九十パーセントを割らないって納得」

「ああ」

 客にとっては憧れの。同業者にとって脅威的なホテルであり続けるのは、そうした好循環の賜物なのだろう。

「保育園もありがたいけれど、深沢のご両親が慎里を可愛がってくださって、とても感謝してるの」

 里穂がしみじみ言うと、慎吾がにこやかに応えた。

「親父達も里穂に感謝しているよ。孫を一生抱っこできないと諦めかけてたらしいから」

 深沢の両親は慎里が可愛くて仕方ないらしく、しょっちゅう連れ出してくれてはお泊まりをさせている。

 おかげで里穂と慎吾は存在しなかった恋人時代を埋め合わせするように二人だけでデートをしている。

「俺も感謝してるよ。里穂を気兼ねなく抱ける」
「……ばか」

 恥じらった妻へ夫はのしかかった。
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