あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
 里穂もホテル勤めだから、沢山の結婚式と遭遇している。

 けれど客室清掃係の彼女はせいぜいハネムーン中の夫婦の客室を整えるくらいで、結婚式についてどんな事前準備があるのかよくわからない。

「君のエスコート役は、どうしてもやりたくて譲らない同士の親父とお袋が壮絶なジャンケンをしているはずだ」

 では負けたほうに慎里をお願い出来るんじゃないかと里穂が思った。
 そう簡単な話でもないと慎吾は言う。

「俺らの息子は『自分も参加するー!』て主張しまくりそうだし」

 もう少し大きければリングボーイをしてもらうというのも手なのだが、まだよちよち歩きである。

 慎吾の両親が介添してくれるにせよ、息子が転ばないかハラハラして、花嫁や花婿の方が駆け寄ってしまいそうだ。

「だったら、抱っこしてた方がいいもんね」
「そういうこと」

 結婚式に対しての問題は、確かにそれくらいしかなかった。

 というのも、慎吾が隠岐CEOに結婚式をすると伝えれば。

『ようやくか、待ちくたびれた』

 強めに背中を叩かれた。挙句。

『いいか、奥方に土下座してでもエスタークで挙げろよ? その代わり奥方の希望日を絶対に通してやる。ああ、ハネムーンがどこの国であっても、うちのホテルのスイートを押さえてやるから』

 首根っこを捕まえられて、言われたという。

「だからって、希望じゃないのに無理やりうちのホテルを使う必要はないからな」

 とは慎吾の弁ではあるが、エスタークの会場はそれぞれ素晴らしすぎて、里穂の予想外だっただけである。

 ……それに。
 
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