あなたの傷痕にキスを〜有能なホテル支配人は彼女とベビーを囲い込む〜
「奥様も絶対見たいはずです、絶対目がハートマークになられるはずです!」

 ん?と、初めて慎吾が興味を引かれ、里穂に聞いた。

「」里穂、そうなのか? だったら(やぶさ)かじゃない」

 慎吾の言葉にスタッフが期待を込めた瞳を里穂に向ける。
 慎吾はスタッフから服を借りると、詰襟の軍服風な衣装を羽織る。合わせて手袋を嵌めて、里穂の正面に立った。

「どう?」

 ほうっというため息がそこここから、そして義母の「我が子ながら、なんて色っぽい!」との言葉。

 だが、肝心な里穂は。

 …………。
 ……………………。

「里穂? こぼれ落ちそうに目を大きくするだけじゃなく、なんとか言ってくれないか」

 夫からの言葉に、ようやく里穂は呪縛から解き放たれた妖精のようにぎごちなく動き出し。

 ごくりと唾液を飲み込んでから、ようやく口を開いた。

「かっこいい、惚れ直した」

 ですよねぇぇっ。
 賛同、同意の嵐。

 しかし、里穂は頬を染めて呟いた。

「……でも。他の女の人が絶対見惚れちゃうから。ヤキモチ妬いちゃうから、自分だけの映像にとどめておきたい、な」

 奥様ぁあああっ。

 悲鳴の陰で、慎吾は凶暴な目で里穂をギラギラと見つめ、拳を握りこんだ。
 そんな息子をなだめるべく、いつのまにか立ち上がっていた義父が慎吾の肩を叩く。

 スタッフのすがるような表情に、里穂は皆を見渡し。にこりと提案した。

「では。ここにいる皆さんとだけの秘密ではどうでしょうか」

 スタッフは目と目を見交わした。

 
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