"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情

「恭平さん」

「ん?」

「会社には指輪をして行きますか?」

「俺はそのつもりだ」

「私は……」

真琴は迷っていた。最近、仕事をしていても、すぐに集中力が途切れてしまい、得意な筈の計算も間違えてしまったことがあった。この短期間で色々なことがあり過ぎて疲れているのかもしれないと思ったり、結婚という人生の最大イベントを経験し、自覚はないけれど浮かれているのかなと考えてみたり、いずれにしろ、こんなことでは自分を選んでくれた恭平に申し訳ないし、堂々と胸を張って、高御堂恭平の妻だとは名乗れない。そう思っていたからだ。

「真琴、無理する必要はない。したくなったらすればいいだけだ」

真琴は頷いた。

「それよりも、身体は大丈夫か?」

「え?」

「最近、顔色があまり良くない気がする」

「そうですか?」

しまった。恭平にはもう既に悟られていた。

「それに、少し、食も細くなったんじゃないか?」

そうだ。言われてみれば、あまりお腹が空かない。それに、来るものが来ない。もともと生理不順で2ヶ月来ない時がたまにある。いつもなら、またかで済ませるのだが、今回はそうもいかない。恭平と何度も身体を重ねている。その度に注がれる全てを受け止めてきた。もしかしたら、集中力が切れてしまうのも原因は同じだろうか。

明日、検査薬で確かめてみよう。それまでは恭平には内緒だ。

「最近色々バタバタしてたから、ちょっと疲れたのかもしれません」

「そうだよな。怒涛の日々だったもんな。明日からまた仕事だ。もう寝ろ。ほら、ここに来い」

恭平がベッドに横になり、腕を広げた。
真琴はスルスルと入り込む。
恭平の心音が心地よい。

もし、妊娠していたら、恭平はどんな顔をするだろう。

恭平の温もりに包まれながら、真琴は目を閉じた。

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