"ぶっきらぼうで笑わない女神"の恋愛事情
戻って来た洸平の後ろにいるのは雪乃だ。

「ほら、雪乃ちゃん、言いたいことがあるんだよね」

雪乃はずっと俯いている。

俯きながら、真琴の前までやってくると、突然正座をし、床に額がつくほどに頭を下げた。

「ごめんなさい!」

「え⁉︎」

「あの時は、突き飛ばしてごめんなさい!大切なものも壊してしまってごめんなさい!」

真琴は突然の出来事に、呆気に取られてしまった。

「本当にごめんなさい!」

「随分時間かかっちゃったけど、ちゃんと謝れたね」

本当に時間がかかった謝罪だけれど、雪乃が実は素直な女性なのだと、なんとなく感じ取ることができた。そんなふうに思えるのは、血が繋がっているからかもしれない。

「許します。だから顔を上げて」

顔を上げた雪乃は、真琴が知っている人物とは思えないほどに柔和な顔をしている。

「雪乃、ちゃんと謝って偉いな」

「恭平お兄さまに褒められたの小学生以来」

「そんなことはないだろう」

「そんなことあるよねぇ、雪乃ちゃん。でも、もう兄さんが雪乃ちゃんを褒めなくても、ちゃんと褒めてくれる人がいるもんね」

雪乃はこくりと頷いた。

その反応に洸平と真琴以外、一同が素っ頓狂な声を上げる。

「あれ?真琴さん、驚かないの?」

「なんとなく、かなぁと思って」

真琴の脳裏には宝来の顔が浮かんでいる。

「は?なんだよそれ!真琴、何か知ってるのか?」

「兄さん、兄さんは鈍いだけ」

「はぁ⁉︎」

「雪乃ちゃん、もう行きな。大切な人が待ってるよ」

真琴は雪乃の手を握ぎり、くりっとした可愛らしい目を見つめた。

「幸せになってね」

雪乃の瞳が滲んでゆく。

「お姉さま……」

真琴は微笑み、雪乃の背中をそっと押した。
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